中編
過去の日常、現在の日常。‐1
『なあ、体育祭って毎年これやってんのか』
『ええ、毎年同じですよ』
『じゃあ、変えるか』
『は、変える?』
『そう。この内容って初等といい勝負だろ? 高等部になってまでこんなちゃっちい体育祭とかやりたくないだろ』
『私はべつに…、決められた事ですし、誰も変えようとは思わなかったでしょうから』
『やれば楽しいって』
『まあ、貴方が言うなら…』
『よし、副会長の言質とったー』
『はい?』
『かいちょー、終わったー?』
『おー、OK』
『やった。やっぱり副会長の説得はかいちょー、じゃなきゃねー』
『ちょ、っと、なんの話ですか』
『内容変更の話?あとはお前だけだったんだよ』
『え、』
『だって、体育祭参加する生徒に確認取らなきゃ出来ないだろ』
『参加する生徒、って』
『高等部、ぜーいんだってー』
『え?』
『時間掛かったけど、最後にお前がOKしてくれて良かったわ』
『貴方という人は…、まったく、断るわけないでしょう』
『分からないだろ?何をやるかで嫌がるかもしれないし』
『貴方がやることは、いつも生徒を笑顔にします。私も含めて』
『そーそー』
『自己満足だけどな』
『良いんです。貴方も楽しまなければ意味がありません』
『ありがと』
『かいちょー、お茶入れたよ、南ちゃんが』
『お前じゃねえのかよ』
『南ちゃんのが上手いし』
『まあな。ありがと、南』
『……うん』
『そういえば、先日実家から菓子が届きました』
『お、マジか。よし休憩ー』
『副会長の実家からくるお菓子って何でも美味しいよねえ』
『こだわりがあるみたいですよ』
『お茶に旨い菓子、いいね』
『会長があまり高級なものを好まないので、和菓子をお願いしました』
『マジか。悪いな』
『いえ、私は和菓子のほうが好きですし』
『副会長はクッキーっぽいのにねえ』
『ピンポイントだな。おー、美味しそう』
『さて、皆さんでいただきましょう』
『わーい! いただきまーす』
『……ます』
『どうぞ』
『いただきます。んー、うま。やっぱお茶に和菓子はいいな』
『甘過ぎないのもいいねー、ここの大福好き』
『良かったです。お茶も美味しいですよ』
『……よかった』
『南ちゃん、お茶おかわりある?』
『……うん』
『かいちょー、脱力してるし』
『休憩なんだから、いいんだよ』
『おれも脱力するー』
『おい、お前こっち寄り掛かるなよ、あんこついてるから!』
『ふははははー』
『やめなさいよ、行儀悪い』
『おかあさん、ヘルプ』
『誰がお母さんですか』
『……生徒会の母』
『…南?』
『……お茶、入れてくる』
『ふは、逃げた』
『ママこわーい』
『まったく…』
─── 楽しそうに笑う声に溢れて、いつしかそれは暗闇に飲み込まれていった。
代わりと言わんばかりに映ったのは最近見慣れた天井。夢から覚めたら、現実は薄暗い静かな部屋だった。
あれはまだ生徒会が安定していて、体育祭を控えた6月の中頃だっただろうか。
夏休み前に転入生が現れて、夏休み中は帰省していたから知らなかったが、夏休み中にはもう、彼らは転入生に恋をして争奪戦を開始していた。
夏休み明けに学園に戻り、転入生の周りで楽しそうに笑う彼らを見たとき、生徒会室に来ないのも一時的なものだと思っていたのに。
まあ、終わってしまったことだから、今さら何を悔やむこともないけれど。
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