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中編
◇例えば、太陽と月と感心と無関心。
 

 何に火がついたのか、アプローチにしてはいささかやり過ぎた感が否めないものの、歓喜する程に結果は良いものになった。
 半ば無理矢理みたいにも見えるが、断ろうと思えば須藤はちゃんとそれを示すやつだと俺は思っている。

 戸惑いは目に見えて明らかだが、今さら止めようとは言わない。言いたくないのが本音だが。
 互いに一方的に告白はしたけど、それも互いにはっきりとした答えはしていない。
 あの喫茶店で、というよりは、もっと落ち着ける、むしろ完全に二人きりの状況の方がよかった。


 自宅に須藤が入っていく後ろ姿を見ると、抱き締めたくなる衝動にかられたが、なんとか我慢した。今日は何かと欲望に対する我慢が多い。けれど、その我慢の中での須藤とのやりとりが心地よい。

 こんなに焦がれたことは、きっとないだろう。
 急ぎたくはないが、せめて少し触れ合えるくらいには関係性を確立させたいとは思っている。


 異性との交際前の駆け引きよりも、単純で、しかし深いものだ。



 普段から部屋は綺麗にしていたが、今日は特にその生活に新たな意味が出来た。
 いい部屋だね、と戸惑いながらも感心したように言う彼に内心胸を撫で下ろす。


 彼をソファへ座らせ、買ったものを整理しながら湯を沸かしコーヒーを淹れる。手伝うと言ってきた彼を黙らせて、ローテーブルに置いたままにしていたDVDを物色させている間に、さっさと済ませてソファへと向かう。



「ほらよ。何か観たいものはあるか?」
「あ、ありがとう。 これ、気になってた」



 コーヒーを渡し、ディスクケースを見る手元を覗き込むと、彼が差し出したのは新作だというアクションミステリー作品だった。
 概要を見て何となく借りたのだが、気になってるものがあってよかった。

 じゃあそれな、とケースを受けとり、デッキにセットしていると、後ろから小さく須藤が言う。



「いいなあ、大きいテレビ」
「ん?───あぁ、40くらいだったかな。貰いもんだ」
「へえ…映画の見応えありそう」
「迫力はある」



 40型のテレビは佐東から貰ったものだ。引っ越し当初はテレビはなく、デカイのを買う気はなかったが、古い型でもないのに新しいのが欲しいから持ってけと半ば押し付けられたようなものだった。折角だからありがたく頂戴したのだ。

 DVD鑑賞が好きだったのもあり、こいつは随分重宝している。
 新築で広いこのマンションだって、案外家賃は安い。隙間に建てられ最寄り駅から離れていて公園もなく寺や墓地が近くにあるという、人によっては悪条件だからなのか、周辺を見れば想像に難しくない。


 けれど、そういう環境を気にしない人間ならここは随分と良い物件だ。



「なんかつまむか?」
「大丈夫。映画とかいつも見いっちゃうから」
「よく観るのか」
「時間があれば。アタリハズレ凄いけど、何となく気になったやつとか」
「一緒だな」



 同じような事をしているのだと分かると、かなり嬉しいものだ。
 時々こうして二人でのんびり鑑賞などもいいかもしれない。



「好きなジャンルは?」



 宣伝などの映像が流れているあいだ、することもないので聞いてみる。



「あまり特定はない、かな。色んなものを観るよ」
「俺も。一人でラブコメ観てたりする」
「ああ、確かに。ホラーとか、概要になかったグロテスクなやつに当たると、うわあってなる」
「あるな。18指定じゃねーのに中身がアウトだったりな」
「あはは、あるある」



 他愛なく会話をしていくと、今まで見れなかった素の笑顔が見れる。大分リラックスしてくれているみたいで安心するも反面、その仕草に構い倒したくなる反面だ。



 近くにいる。
 触れることが出来る距離にいる。
 それは今まで考えたことのないもので、迷いは確かにあった。
 けれど、会話をしているうちにそんな迷いは影を薄くしていくし、太陽と月のように反対側からは色濃く主張する愛しさが表れるのだ。
 その愛しさが沈み迷いが顔を出す時も必ずあるが、それでもいいと思った。それが良いと思ったのだ。
 迷いがあるのは、不安があるのは、そこに想いや関心があるからなのだと。



 

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