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中編
◆垣間見る。
 

 どうすればいいんだ。
 彼は俺を心臓発作で殺すつもりだろうか。
 滑らかに走る車の中で、ただただそんなことばかりが浮かぶ。



 ───混乱と興奮の中で弾けて、イイ歳して泣きながら過去も合わせて告白してしまった。
 その告白に対する返事はなかったけれど、そもそも彼から「好きだ」と言われたのだ。思い出すと暴れたくなる。
 どういう「好き」なのかなどは愚問で、そんなに鈍くもない。親愛ではないのは確かで、じゃなきゃあんな仕草や言葉は思わせ振りもいいとこだ。


 流れる景色を見てるようでまったく頭に入ってこない。車内は無言。
 けれど今は、それでよかった。


 ただひとつ、いつまでも落ち着かないのは、この車は持ち主の家へと向かっているということ。
 借りたDVDの件については嘘ではないだろうけれど、取り付けた感が否めない。考えすぎか、自意識過剰だろうか。


 話が決着したわけではない。
 互いに告白をしただけで、互いにそれに対する返事をしてない。
 どうしたらいいのか分からないのだ。
 異性の場合とは、一般的な恋愛とは違う。同性だからこその不安。
 このまま曖昧になるのだけは嫌だった。
 欲深いのは分かってる。でも、確かなものに、はっきりとした位置にいたい。それは誰もが同じだと思う。
 だからこそ、まだ、俺は片想いのままなのだ。



 暫くすると、車はコンビニの駐車場に停まり、「行こうか」と言う彼と共に降り立つ。
 大手チェーンのコンビニで、彼は酒とつまみをカゴヘ入れると俺を見る。



「折角だから泊まれ」
「はい?」



 突然の言葉に、思わず呆けてしまった。今日はそんなことばかりだ。
 にこやかに強制的なことを言い放った彼は、返事も聞かずに満足げでお茶や菓子類を投げるように詰め込む。



「いや、あの、服とかないですし」
「敬語やめないと襲うぞ」
「え!?すみま…っ、ごめん。 いや違くて、着替えとか下着とか…!」
「服は貸す。下着は買う。以上」
「……俺様」
「そうきたか。てか決めらんないだろ」
「う…」



 負けてしまった。
 これはもう、諦めて発作を覚悟するしかない。持病などなくいたって健康優良だけれど。
 というかこんなところで「襲うぞ」って、泊まれの衝撃が長引いてるせいで頭が混乱してる。どうしたんだ一体。


 そこでもやはり財布から金銭を出すことを許されず、電子マネーという手段に出られてしまい、思わず背中を軽く叩いてしまった。
 彼は笑いながらも、そういう素でいてくれればいいんだと諭すように言うのだから決まりが悪い。



「……倉科さんは意地悪い」
「酷い言い様だ」



 そんなの知ったことか。
 車に乗ってすぐに言うと笑い返されたが、事実なので訂正はしない。

 ここからすぐだと言うマンションは、確かに車が走り出して三分もしないうちに専用駐車場へと入った。
 マンション、といっても高層ではなく十階ほど。彼はエレベーターで三階を押した。



「どうぞ」
「…お邪魔します」



 三階の角部屋で、ドアを開けて促され恐る恐る入り込む。
 廊下が伸び、突き当たりに扉。廊下の左右にも計三つ扉がある。
 トイレ、浴室、寝室だろうなと適当なあたりを付けながらも、真っ直ぐ行って、という彼に従った。



 突き当たりの扉を開けるとそこはやはりリビングで、広々とした空間。
 あまり物がなくさっぱりしているのもあるのだろうけれど、男にしては綺麗にしている。
 左側にキッチン、ダイニングスペースがあり、大きめのテーブルにイスが四脚。独り暮らしなのに、と思ったが、それを見越したのか「揃えた方が客がきたとき楽だから」と彼は笑った。
 右側はリビングスペースで、三人は余裕で座れる黒い皮張りのソファに薄型テレビ、カラーボックスと、全体的にモノクロ。
 地味すぎず派手すぎない、なんとも心地よい空間だ。
 まあ、片想いの贔屓目があっても仕方ないと思うけれど。


 楽にしろよ、と言う彼に甘え、上着や靴下を脱ぐと、彼は布製のカゴを差し出して、そこに荷物を入れておくといい、と素晴らしいくらいの気遣いを受けた。


 なんだか、甘やかすというか尽くすというか、いちいちドキッとする事をするなあ、とこれからの一日の自分を少し心配した。


 

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あきゅろす。
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