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中編
◆変えられないもの、変えられるもの。
 

 あれから合同会議というよりは食事会となっていたそれが終わり、最寄り駅で互いに別れて、佐久間課長はあの店に、というより店のオーナーに用があるということで、そこから一人複雑な気持ちのまま自宅まで帰った。

 企画についてはすっきりしているのに、個人的な問題が内側に纏わりついていてどうにも複雑なのだ。


 静かな部屋に入り、何となくテレビを点けるとバラエティー番組だったようで芸能人の笑い声が室内に広がる。
 着替える気力をなんとか絞り出して部屋着へと替え、ソファに身を沈めて出たのは思ったよりも深い溜め息。



「……なにしてんだか」



 掠れた声が出て苦笑する。
 テーブルに置いた携帯に目がいく。

 電話帳には、仕事とは別にしているという彼の連絡先が登録されている。本当にプライベートなものだ。
 仕事用とプライベートで携帯を別にしている人は珍しくない。それは会社の意向であったり、個人的な拘りであったり様々だけれど、彼の勤める会社は前者なため、入社時に会社から支給されるらしい。


 自分のいる会社にもあるが、こっちは任意で、持ちたい人は会社に申請してから支給される。
 面倒臭がりな気があるせいで、俺は個人の携帯で統一しているけれど。


 佐久間課長は個人的に二台持ちだからと、一台を会社用にしている。その両方の連絡先は、佐久間さんが課長になった時に課内社員全てに回っている。

 それと同時に、今まで疎らだった課内社員同士の連絡先を全員が知るように半強制的に連絡先交換大会なるものが行われて、俺はその時一気に課内社員の連絡先が増えたことで混乱した記憶がある。


 彼らの連絡先だって、それと似たようなものだ。仕事以外での連絡など、プライベートなものなどない。
 俺と他人と思い込みや勘違いをしているであろう彼は、あの時俺を見て「変わらないな」と言った彼は、けれど本当に勘違いをしているのだろうか。
 もし連絡が来たとして、決定的な食い違いが生じたら、俺はこの複雑な感情を今度こそ消してしまえるだろうか。




「……馬鹿か」



 馬鹿か俺は。

 ずるずると体を倒し、ソファの肘掛けに頭を乗せる。

 馬鹿か俺は。


 さっきからずっと、彼から連絡が来ることを期待している。
 こんなのもう、思い過ごしなんかには出来ないじゃないか。女々しいな。


 それでも、あの時抱いていたあの気持ちと差があるのは、やっぱりまだ、彼の中の俺と今の俺とを確実な一人にする自信がないからだ。
 このまま溺れてしまえば、あの片想いの苦しさや切なさなんて比ではないほど、傷が付く。


 ならばこのまま、思い過ごしとして扱っていよう。
 企画が無事に終われば関わりはほとんどないに等しいのだ。
 個人的な話をしたわけではないけれど、それでもやっぱり、共通の話題なんてないだろうし、交友関係だって共通するほど仲良くしている人はいない。


 だから、まだ、大丈夫。



 テレビの中から流れる笑い声を聞き流しながら、ゆっくり目を閉じた。

















 それから数日後、集合ポストに一枚のハガキが投函された。

 それは、今後の流れを変える目に見える選択肢として、俺の頭を悩ませる事になる大きなものだった。


 

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