[携帯モード] [URL送信]

中編
同じもの。
 

 ひとり心中で焦っていると、急に繋がれた手が横に引っ張られて宇佐見にぶつかる。拍子に手が離れてしまった。
 慌てて離れようと力を入れたが、反対側の肩が掴まれてそのまま宇佐見の前に立たされ、されるがまま、教卓と宇佐見の間に移動。
 流れるような動きに誰も反応出来ず、俺は宇佐見に説明を求めようと振り返りかけたとき。


 腹の前に両腕が回り、その手が繋がれ、後ろから抱き締められる形になって、ついでと言わんばかりに左肩に宇佐見の顎が乗っかる。
 え、と思った時には、横顔に宇佐見の髪が触れ、息遣いが間近に聞こえてた。


 そして混乱する脳に、更なる追撃。



「だめ。俺のだから」
「ぶはっ」
「え、ええ!?」
「っゆーうーやァァ!!」



 大森の悲鳴混じりの怒声など耳にも入らないくらい、その言葉に、俺は何がなんだかわからなくなった。


 ───だめ。俺のだから。


 まさか。そんな、まさか。
 ぐるぐると回るそのセリフが、脳内を埋め尽くす。



「宇佐見、はっきり言ってやんねぇと。カメ、挙動不審になってんぞ」



 呆れたように言う羽田。
 挙動不審は否定しない。だってもう、ワケわかんないんだもん。

 力が込められた腕に、更に体が密着して、さっきまでのキスを思い出して俺の顔面はもう紅玉並みの赤さだろう。


 す、と横で息を吸い込む音を聞いて、無意識に体が強張る。



「好き」
「……っ」



 小さく、囁かれた言葉。
 俺がずっとずっと隠してきた、甘い色を含んだ言葉。

 信じられなくて、友愛じゃないのかって疑って、けれどさっきまでの甘い時間がそれを否定する。



「う…さ、ちゃ……」
「名前で呼んで。はる」
「〜〜〜っ、ゆ、う…」



 はる。
 そう呼ばれた瞬間に、前で組まれた腕を掴みながら顔を上げていられなくて、俯いてかすれ声で応えると、頬に宇佐見の頬が擦り寄るように触れてくる。


 嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、恋しくて愛しくて、抑えきれない気持ちが、いつの間にか涙になって溢れた。



「残念だったな、大森」
「うっせえよ。でも照れたカメちゃん可愛い」
「……変態」
「だまれむっつり」
「はいはい」



 そんな会話がされているのも気付かずに、俺はただ、宇佐見の温もりに安心して、嬉しすぎて泣いた。






 恋なんて面倒な、って思ってた。だけど、気付いたら近くにいて気付いたら話していて、気付いたら、好きになってた。


 それは、宇佐見も同じだったと後から知って、嬉しくて抱きついたら抱き締め返してくれて、俺はその時また泣いてしまった。泣き虫だ。



 羽田と大森の前で恥ずかしげもなく、宇佐見は俺を向かい合わせにして、「恋人」でいて欲しいのだと、俺の涙腺を破壊する攻撃を繰り出した。
 もう即答。いや、泣きと歓喜で声は出せなかったけど頷きまくった。


 その直後に見た宇佐見の顔は、今まで見たことがないほど、甘く優しい、まさに笑顔だったから、二人きりじゃないのを忘れて、飛び付いてキスをしました。


 好き。好き。
 まっすぐ、ただまっすぐに、俺はありのままそれを伝えて、後々羽田にからかわれてまた赤面したけど、もういいよ気にしない。
 幸せのが強くて跳ね返すくらいに、俺は宇佐見への気持ちでいっぱいに満たされたんだから。



 

[*←][→#]

32/33ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!