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中編
09
 


 しつこく一緒に帰りたがる大森だが、生憎俺らとは帰り道が逆方向だから帰れないし、ぶっちゃけ今そういう気分じゃないのは大森を除いた三人が共通してるだろう。
 でも話す機会、というのは一理ある。このタイミングを逃したらカメは本当にこのまま準備室に行けなくなるし、宇佐見から接触してくる可能性は正直見込めない気がする。
 ついでに宇佐見と話したいこともあるし、と駄々を捏ねる大森と会話しながら少し考えて、時計を確認した。


「……9時には帰るからな」


 これは仕方ない。カメには悪いが少し大森の相手をしてもらおう。
 近くにある公園に行く事に決まって、じゃれついてくる鬱陶しい大森を引き剥がしながら歩き出した。
 後ろで何を話しているのかは聞こえないが、たぶん大丈夫だろう。


「お前カメに言う気か」
「告白っていうか、まあある意味告白?」
「ストーカー自白すんのか」
「ちょっと似てる」
「捕まれ」


 へらへらしてるのが無駄に恐い。
 大森はその後カメの方へ絡みに行って、自然と宇佐見が俺の隣に来た。


「…よう、カメと話せたか」
「ああ……悪いな、大森がバカで」


 横目で一瞥した宇佐見は真っ直ぐ前を向いているが、無表情というよりは罪悪感のような表情だった。
 もしかしてデフォルト無表情じゃないのか。普通に変化するのかコイツ。


 公園に入ってベンチに座ると、宇佐見が隣に腰掛けて少し離れたところにいるカメと大森を見ていた。


「───羽田は、亀山と仲が良いな」
「あー…小5からの付き合い」
「そう」


 足に肘を乗せて頬杖をつく。
 聞くなら今だよな、と大森に絡まれているカメを見守りながら口を開いた。


「気付いてると思うけど。カメの気持ち」
「……、」
「足踏みしてんのはなんで?」


 カメは分かりやすい。
 コロコロと表情が変わるし、それが表に出てくるから宇佐見だって分かるはずだ。
 それに宇佐見自身もカメに対して同じような気持ちがあると、観察していて気付いた。
 でも宇佐見は、カメと違って知っていながら気持ちを伝えようとはしない。


「タイミングが分からない」
「うぶかよお前ら……」


 大森が言ってたのはそれか。
 近付くタイミング。今までずっと同じ態度だったから、急に気持ちがあると伝えるのは難しいのだろう。
 ベンチの背凭れに寄り掛かり溜め息混じりに言うと、宇佐見は俺を見て言った。


「羽田は、言わないのか」
「知ってんのかよ……。言わねぇし、俺に気ぃ遣うな。アイツがお前の事で相談してくる前からめでたく失恋してんだよ」
「……ごめん」
「謝んな面倒くせぇ。良いんだよお前だから」
「俺?」


 寄り掛かったまま顔を向けた先の宇佐見は怪訝そうな顔でこっちを見ていた。


「あいつの事幸せにしてくれそうなやつ」
「………」


 お前だけが今のカメを明るく出来る。
 別に他の奴等や俺と居て暗くはならないが、落ち込んだり寂しかったり辛かったり痛くなったり苦しくなったり、そういう感情を抱く相手は逆にそれを無くす事も出来る。
 あいつにとって宇佐見と一緒に居られる事が幸福なら、それで良い。


「だからさ、アイツを幸せにしてやってくんね?」
「……お前はそれでいいのか」


 あぁ、それ亮平さんにも言われたな、と思い出して笑う。


「いいっつってんだろ。でも、傷付けたら殴る」
「……分かった」


 


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