中編 08 20時を回った頃、高阪は周りに帰るぞと促して一人会計を済ませるためレジに向かい、生徒は店から出て隅の方でグループを作って喋っている。 その中から少し離れた所でカメと高阪を待っているなかで、ふと見た横顔の雰囲気の暗さに自分の気分も下がってくる。 どうしたらコイツの明るさが戻るのかは分かっているが、今それが出来る奴がいないから話を聞くしか出来ない。 「乙男のお悩みは尽きないな」 「突然過ぎてそれに対する言葉を返せないんだけど」 隣で笑ったカメは、しかしクラスメイトの方を見たままだった。 「聞いてやるよ、明日休みだしな」 「えー、なにその仕方ないな、みたいな言い方ー。俺なんも言ってないし」 「バレバレだから」 いつまでも悩まれると俺まで気分が落ちてくる。カメは笑ってる方がいい。 だから早く気付けよ。 ここ数日宇佐見を観察してみて察したあいつの心中は、お前が思っているよりも悪くないし寧ろ良いものなんだから。 自分で二人の背中を押すと決めているのに、もどかしいと思うのに、やっぱり少し息苦しさもあった。 いつもみたいにふざけて笑ってくれたらそれで良いのに、カメは最近悩み過ぎて明るさが鈍っている。 自分でもよく分からなくて困るよね、なんて笑ったカメの背後で面倒くさい声が聞こえた。 「───お、羽田じゃん」 「…あぁ、」 またお前か。 振り返った先にいた大森を見て、タイミング悪ぃな、と呟いてしまったがカメは反応がない。隣には宇佐見がいるけど、その目はカメの背中を凝視している。 「…なに、お前ら二人?」 「おう。打ち上げの帰りー。お前らも?」 「まあな」 帰りがこっちなのか、と察して溜め息が出た。こいつやけに絡んでくるけど、ストーカー止めて直で行く気になったんならマジでやり方変えた方がいい。 ファミレスから出てきた高阪の声がする。 「ついでに一緒に帰ろーぜ」 「何でだよ」 意味が分からんと面倒くささを全面に出したが、大森は空気を読まないのか読めないのか肩を組んでくる。やめろマジで鬱陶しい。 どうするか、とカメを見ると、カメは苦笑してから高阪の方へと逃げた。まあそうなるわな。 「……お前面倒臭い事してんじゃねぇよ」 「話がしたいだけじゃん。いい機会でしょ」 「……」 こいつ言う気か。 大森はこのタイミングでカメに告白するつもりなのか。イメージ最悪なのに何でそうしようと思ったんだ、と呆れていると宇佐見が視界に入る。 じっとカメと高阪の絡みを見ている。 「…裕弥も踏み込むタイミング分かんなくなったらしいし」 「……煽りならもっと上手くやれ」 小声で言った大森に溜め息が止まらない。 ヒールにでもなったつもりか知らないが、まあそれに関しては見事と言えるほど俺を含めて三人からヒール扱いになっているけど、もっとやり方あっただろ。 肩に回されている腕を外して顔を上げると、高阪がカメの頭を撫でていた。なんとなく後ろを見ると宇佐見も大森も若干眉を寄せている。面倒くさ。 嫉妬すんなちゃんと伝えりゃ良いのに。俺に言う権利ねぇけど。 仕方なく高阪たちの方へと向かい、カメの腕を引いて距離を取らせた。 [*←][→#] [戻る] |