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中編
05
 


 静かに悶えるという器用な事をしているカメは、歓喜で泣くんじゃないかと思うくらいだった。


「……俺、いま、幸せ」
「そりゃよかったな」


 ありがとう、と呟いたカメは本当に嬉しそうで、久しぶりにこんな感動している姿を見てしまうとやっぱり自分でも嬉しくなって溜め息と笑みが同時に出てきた。
 カメはしばらくそのまま宇佐見を観察してから体をこっちに戻して立ち上がる。一緒に立ち上がって「入らねぇの」と聞いたらゆるく頭を振って、カメはつらつらと心境を語った。

 重症だなこれは。

 まったくこいつは、と溜め息が出るとカメは苦笑いで謝った。別に良いんだけど。

 小腹が空いたと食べ物を求めるカメに同意して、体を伸ばしたカメが歩き出そうとした刹那、視界に白い塊が入った。
 あ、と思った時にはそれがカメの腕を掴んだ為に驚いたカメは咄嗟に振り返って、綺麗にかっちり固まった。


「…寄らないのか?」
「……っ」


 カメより若干背の高い宇佐見はしかし白いウサギの格好で首を傾げた。
 なんだこれ。絶対似合わない雰囲気だったのに以外と似合ってるこの違和感の無さ。宇佐見だからか。ウサギだからか?
 無表情なのに顔の横で垂れる耳とかもふもふ加減とか、いつも通りの宇佐見なのに外見だけ妙にふわふわしてる。

 硬直しているカメは心中が荒れているのか困った顔で俺に助けを求めたが、ちょっと笑いそうだったし目を合わせたら絶対に吹き出すので顔ごと逸らした。


「…えと…」


 戸惑いが明らかなカメの声に観察を再開すると、宇佐見はカメだけをじっと見ているが何を考えてるのかはよく分からない。
 でも、カメにとっては悪くない状況ではあるはずだ。


「…席、空いてるけど」


 絶対に行くと言ったカメが入るのを躊躇っているから引き留めたのか、単に宇佐見がそうしたかったのか。
 感情が読み難い無表情デフォルトは侮れない。

 カメはどうするのかと様子見していたら、混乱がピークに達したのかぶっ飛んだ本音を吐き出した。


「宇佐ちゃんと相席したいな!」
「ぶっ」
「え、」


 これ笑わないとか無理。
 本音駄々漏れじゃねーか落ち着けよ。
 流石の宇佐見も驚いたのか、きょとんとした顔でカメを見ている。すぐ無表情に戻ったけど。

 カメは慌てて雑に笑いながら「…なんちゃってー」と冗談に変えたが、苦しいぞそれは。そのまま本音にしとけば良いのに、と溜め息を吐いた時、宇佐見は一度教室を覗くとカメに向き直った。


「……別に、いいけど」
「ぶっは!」


 無理笑う。なんなんこいつら。不器用かよ、中学生かよ。

 悶えるカメの様子にこれはこのまま動きそうにないな、と宇佐見を見ると目が合って、手で「中に入る」という仕草をすると案外すんなり理解してくれた。




 教室に入ると、机を合わせてクロスを掛けた席がいくつか並んでいて、簡易的ながら割りと喫茶店っぽい。
 最近は学校を模した居酒屋とかあるみたいだし、こういうのも実際に店としてあるのかもしれない。


 


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