中編
04
一回目のダンスを終えると、正面玄関の周りには人が沢山立っていて拍手がそこかしこから贈られた。集中してると意識しないもんだな。
他のクラスメイトが校舎内に入っていく中で、隅の方でカメはそれを眺めていた。自発的には動けないらしい。このまま何もしなかったらアイツは行かないんだろうなと、仕方なしに肩に腕を回した。
「汗臭いんだけど!」
「いやお互い様だから」
あまり俺からこういう事をしないから不思議に思っていそうだが、カメは拒絶はせずに俯いた。
「行きづらい」
「どこに?」
「……宇佐ちゃんとこ」
まあそうだろうよ。
カメが本当に行きたくないなら無理矢理連れていくつもりは無かったが、心底行きたくないと思っているわけじゃない。
ただ自分の気持ちが不安定で、大森と仲良さげな所を見たくないだけだろう。けどそんなんじゃ先へは進めない。
「いーから、行くだけ行ってみればいいだろ」
「……うー…」
引き摺るようにカメと校舎内へと入り、流石に暑苦しいからすぐに離れた。
宇佐見のいるクラスへ一直線に行くよりは他を回って気を紛らすのが良いだろうと、貰ったペットボトルのお茶を片手に遠回りで教室を回った。
「楽しまなきゃ損だぞ」
「……うん、そうだね」
ゆっくり見る時間はあまり無いのでお化け屋敷など時間が掛かりそうな催しは後に回し、展示物を流し見たり教室内を覗いてみたりしているうち、カメはいつもの調子に戻っていった。
これなら大丈夫か、と様子を伺いながら宇佐見のいるクラスへと足を向けた。
クラスの前に立てられた看板が視界に入ると、まあまあ賑わっているのか人が結構いた。
「お、ここだな」
看板にはポップな文字で「着ぐるみ喫茶」と書かれていて、宇佐見には似合わない雰囲気が漂っている。
そういや大森が着ぐるみがどうとか言ってたなと思い出していると、横で「え、着ぐるみ…?」と小さな声が聞こえた。
どうやら色々混乱しているらしい。カメが言うには宇佐見は接客担当だから、当然着ぐるみ着用義務があるはず。バイトの制服みたいなもんだ。俺は絶対に着たくない。
悩ましげな表情のカメは、着ぐるみの文字に遊園地とかであるあの着ぐるみを想像しているのか、うんうんと唸っていて面白い。
さっきちょっと覗いてみたがそういうやつではない。
「着ぐるみってか、ドンキとかで売ってるやつだろ」
「……あぁ、」
なるほど、と納得したカメは何を想像したのか急にキラキラとした雰囲気に変わった。忙しい奴だ。
普通に入れば良いのにカメは出入り口の向こう側を恐る恐る覗き込んだ。不審者かよ。
直後、カメは口を押さえてしゃがみ込んだ為に同じようにしゃがむと、笑ってしまうくらい顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。
何を見たのかは予想できるけど、そんな反応するのはお前くらいだ。
再びそのまま覗き込むカメの上から顔を出してみると、ディスカウントショップにあるような白いウサギの着ぐるみに身を包んだ宇佐見がいた。なんのギャグだ。
しかしカメには効果抜群なのか、見下ろした先で口を押さえたまま震えていた。
「……か…可愛すぎて…」
「なんだ死ぬのか」
「いや生きる。…でもマジで叫び声吐きそう……」
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