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中編
03
 


 文化祭当日、カメは前の日も家に泊まっていて寝起きは微妙だった。好きだと自覚してからその意識は宇佐見に一直線で、何かと宇佐見の話をしてくる。
 準備期間中も時折見掛けたが宇佐見は大森と居て、基本的には無表情なんだけどたまに微笑程度の変化があった。それすらカメにとっては珍しい光景なのか話し掛ける事もなくただ通り過ぎる。
 カメは明白に嫉妬していた。お前にもそういう顔があったんだな、とは思うけど、遊びを止めて一人に想いを寄せる姿は例えそれが自分に向いていなくても輝いて見えた。

 俺はお前の幸せな顔が見られれば良いよ、と心中で妥協はしている。
 前日の夜は亮平さんに「二人が上手く行くように考えてみる」と言った。亮平さんは「本当にそれでいいの?」と心配そうに返してくれたけど、俺にはそれしか出来ないからと笑った。

 それしか出来ないんだ。
 今の俺が好きな奴に出来る事なんて、アイツが望む結果を得られるように手助けするくらいしかないんだ。



 ───ダンスのステージになっている正面玄関には、クラスメイトが普段は着ない派手な格好で集まっている。
 委員長は緊張気味の生徒に声を掛け、少しでも楽しめるようにと気を使っているようだった。でもあれは素の性格もあるんだろう。

 隣に立っていたカメがその光景を眺めながらぽつりと溢した。


「……男の嫉妬は醜いね、羽田くんや」
「なんだ急に。乙男が」
「うっさいよ」


 何を考えていたのか、詳しい所は知らないが十中八九は宇佐見だろうな。
 大森の存在に嫉妬して、嫉妬した自分を嫌悪している。

 宇佐見たちのクラスでは変わった喫茶店をやるらしく、最初は絶対行くんだと意気込んでいたカメだが、今では行くのに勇気が必要になっているようだった。
 行きたいけど行きたくない葛藤。
 会いたいのに会ったらまた嫉妬してしまう懸念。
 カメは宇佐見の気持ちを知らない。あれは俺の勘だったから自分自身でも確信はないが、カメが思っているよりも状況は悪くないはずだ。
 悩み込むのはコイツの癖だが、片想いの感覚は痛いほど理解している。現在進行形だから余計に痛いんだけど。
 ていうかもう失恋確定だし。

 不安な表情から動かないカメに、溜め息ひとつ慰めるように言った。


「片想いで不安になるのに、男女に差はないからな」
「羽田が格好いい事言ってる…」
「……フラれてしまえ」
「ひっどい!」


 何年お前に片想いしてると思ってんだクソ野郎。思春期の片想いナメんな。
 俺の片想いが大森みたいに拗れてないだけありがたいと思えや畜生。なんて言えるわけもないのに勝手に頭の中でぶつけて、結果出たのは「フラれてしまえ」だった。


 そんな俺にカメは憤慨したように言ったが、安心している風にも見えた。俺が普段と変わらない態度だからかもしれない。
 お前がそれで良いなら、俺はそうする。

 開始時間と共に定位置に立ち、斜め前にいるカメを見ながらアイツを普段のテンションのまま喫茶店に連行する計画を立てた。


 


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