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中編
04
 


「……あの、さ、アンタ、ここに来てから今までオレのこと見えてなかったよね」
「ん? ああ、見えてない」
「音とかは?」
「さあ…、気にしたことない」
「そうなんだ…、」



 気だるい体を起こしてベッドを背凭れにすると、男も一緒に移動して隣で膝を抱えた。
 俯きがちながら見てくる男を康之は不躾に観察したが、やはり話やテレビなどで見る幽霊のイメージとは違ってその外見は綺麗なものだ。
 元々男の容姿が良いのもあってか、透けている事を除けばそこら辺にいる顔の良い若者でしかない。



「音ってお前が出してんの?」
「え、と…好きでやってるわけじゃなくて、なんか腹立ったりびっくりしたりすると勝手に音になって出たり近くの物が揺れたりする」
「ふーん、起伏の激しさで波紋が出るようなもんか」
「なのかな、だから驚かせちゃって、みんな怖がってすぐ居なくなる」



 なるほど、意図的な嫌がらせとか悪戯ではなく本人の意思に関係なく出るのか。
 さっき声を掛けた後に、男の叫びに押されたように落ちた書類が視界に入る。



「たぶんだけど、音が無かったのって、アンタが来てからオレのそういう起伏?が激しくなったりしてないからかも」
「俺の日常が退屈みたいなもの言いだな」
「いや、いや!違うよ、退屈じゃなかった。寧ろなんかずっと見ていられたっていうか…」
「ずっと見てたのかよ、変態」
「だから違うってば!」



 必死に否定する男は顔を赤らめてこちらに手を伸ばしたが、肩には触れずにスッと通り抜けた。
 無意識に肩を掴もうとしたのだろうが、叶わずにすり抜けた自らの手を寂しそうな眼差しで見つめる男を、康之は何も言わず見ていた。



「……ここから出られないし、自分のことなのに覚えてないし、話も出来ないし、触れないし、何でオレここに居るんだろう」
「さあな。未練でもあるんじゃないのか?」



 握りしめた拳は確かにそこにあるのに、試しに触れようと手を伸ばしても空虚で温度の変化すら感じない。
 空気を掴む、という感覚すらも。

 眉を寄せた男は悔いるように目を閉じて両手を下げた。



「やっぱオレ死んだのかな。 …その未練晴らしたら、成仏?っての出来ると思う?」
「専門じゃないから何とも。未練があるのかどうかすら分からないんじゃあ、どうしようもないな」
「……だよね。 でも、アンタと話せるならまだ寂しくないかも」
「は?」



 顔を上げた男は先ほどとは違って前向きに明るい表情をしていた。
 言っておくが康之はまだ酒が抜けていない。つまり酔っている。酔っている状況で会話が出来ても、素面で会話が出来たり見えたりするかは分からない。



「明日もお前が見えるかどうかも分からないのに」
「でも今はこうして見えてるし、話も出来るでしょ。だから大丈夫だよ」
「根拠ないくせに何だその自信は」
「わかんない!でもオレ、嬉しいよ。嬉しいから良いんだよ」
「ますます意味がわからん」
「ね、名前教えてよ!」



 にこにこと人懐っこい笑顔で、本当に嬉しそうに言う男に毒気を抜かれたのか康之は意味が分からないと言いながらも可笑しくて笑ってしまった。
 自分の住み処に見知らぬ他人が居る。しかもそれが幽霊だというのに、不利益で無ければ気にならない康之の無頓着さがそこで発揮された。

 ───それが透けた変態男と康之の初対面である。
 因みに康之が翌朝目が覚めると真上に笑顔の変態が見えたので、これからずっと男が成仏するか康之が出ていくまで見えて会話が出来てしまう事や、昨夜の出会いが夢とか幻覚幻聴ではなかったという確信を得た。



 


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