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中編
17
 



 こっち、と促されて付いていくと、店の裏側の勝手口を叩いた久住さんは扉を開けて声を張る。



「池田さーん、野菜持ってきたー」
「おー、ありがとな」



 奥から足音と野太い声がして、久住さんに手招きされて勝手口から入るとがっしりした体格の店主と目が合った。



「今日はおまけ付きかい」
「三神のじっさん所のお客さん」
「…はじめまして」
「お客さんて、なんでまた」



 南瓜とトウモロコシを渡しながら、久住さんは俺が宿所で御主人の畑仕事の手伝いをしている事や、老夫婦が俺を孫扱いしているせいで客に見えないだのと話していて、止めても無駄だと知っていたので放っておいた。
 店主は笑って「晃に好かれるなんざ災難だな」と何故か饅頭をくれた。



「災難とか酷くね?」
「おめー気に入ったヤツにゃしつけぇだろがよ」
「そうかぁ?」
「なあ、楓くん」
「はい、まあそうですね」
「同意すんなよー…」



 久住さんは店主から売上金と饅頭を受け取り、また来るからと言って勝手口から出て行く。慌てて店主に饅頭の礼を言ってから追いかけた。


 どうやら彼のしつこさはこの辺りでは周知らしい。
 手元にはトウモロコシの代わりに饅頭が鎮座していて、助手席に戻ると久住さんは既に饅頭を口に放っている。



「しゃー、次ー」



 軽トラックはゆっくりと走り出し、商店街の終わり辺りで停車した。
 今度はトウモロコシだけをカゴごと抱え、俺に勝手口を叩いて開けてほしいと言ってきた。



「さっきみたいに開けてくれたら俺が呼ぶから大丈夫」
「……はあ、」



 とりあえずやらねば、と勝手口を叩いてから扉を開けると久住さんがそこへ入ってまた店の主人を呼んだ。
 そこでも先ほどと同じような会話になり、次はペットボトルのお茶と煎餅を渡される。物々交換のように感じるが、彼らは売買をしているし土産があるのはいつもの事らしい。


 次は反対側な、と車に戻ってから言われて頷く。
 商店街の人達に自分の存在や名前が知れ渡っていく事が、僅かながら怖かった。なんで連れ出したんだろう、なんでついて来たんだろうと、助手席で揺れを感じながらペットボトルを握った。


 反対側の道に入って真ん中あたりで停車して、今度は残りの南瓜を互いに持って勝手口に向かう。



「さっちゃーん、南瓜持ってきたー」
「はーい」



 勝手口から入ってすぐにまた声を張る久住さんの背中を眺め、促されてそこへ入りまた同じような展開になる。

 ふくよかな年配の女性がにこやかに挨拶をしてくれて、「暑いでしょう」とアイスキャンディーを渡される。
 すると奥から豪快な笑い声が聞こえて、この店が昨日訪れたかき氷屋だと気付いた。



「おっちゃんは前?」
「うん、顔出してあげなね」
「んじゃあ楓、行くぞー」
「え、ちょ」



 アイスキャンディー片手に空いている手を取られ、細い店と店の間を通り抜けて商店街に引っ張り出された。



「お、晃じゃねーか!昨日の兄さんまで一緒か」
「そー、荷運びの手伝いしてくれた」
「お前が我儘言ったんじゃねーのかあ?」
「おっちゃんまでそう言うのかよ」



 カラカラとした二人の笑い声に、店内にいたお客さんも一緒に笑っている。
 みんなが知り合いなんだなと改めて思いながら、いまだ掴まれたままの手を軽く持ち上げてみると「お、わりぃ」と気が付いた久住さんは手を離してくれた。



 


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