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中編
03
 


「始めまして、小山です。今日からお世話になります」
「はじめましてー、夜勤の神原でーす」
「……河内です」



 いつもより早く翔君と同伴出勤してきたら、暇なのか出勤している夕勤メンバーが全員事務所にいた。
 客室に置いているフェイスタオルとバスタオルを3つ折りにしながら雑談していて、賑やかだったからまあ新人くんの愛想が悪いと言うわけではないらしい。

 そこで、事務所に入ってすぐ目があった知らない若い男が戸惑いつつも挨拶をしてくれて、第一印象は悪くない。
 どうやらうちの夜勤の宮田くんと同じ二十歳で大学生、客室清掃という仕事に興味を持ったのだとか。
 そんな簡単な紹介を受けつつ、人見知り気味な翔君はいつものようにカーテンの向こう側の休憩喫煙所擬きに行ってしまうのを見送り、新人くんに笑いかける。



「中番に花が咲いたねえ。小山くんイケメンだからルームサービス持っていったら番号聞かれたりして」
「いやいや、それはないですよ」
「河内君はあったんだよ」
「え、マジですか」



 夕勤の古株であるおっちゃん(愛称)が真面目な顔でノってくれる。
 小山くんは割りと整った顔をした上に若いから、一回はありそうだという話を夕勤メンバーと話し合う。



「まあ、受け取っちゃっても連絡しなくていいからね」
「しませんよ…」
「てかユッキー、うちらは花じゃないの?」
「え」



 フロントから出てきた河瀬さんが笑いながら言ってきて、慌てて首を振った。



「違う違う。河瀬さんは満開、小山くんは八分咲き」
「満開ってもう枯れるだけじゃん!」
「中学子持ちで八分はないっしょ」
「えー、ユッキーうちに冷たくなーい?」
「何言ってんの、温もりしかないよ」
「生温いんじゃないの」
「熱帯だったらそれはそれで文句言うでしょ」
「春の気候くらいがちょうどいい」
「…あんたたちなんの話してんのよ」



 態度の温度差について河瀬さんと議論?していると、夕勤メンバーである主婦の木内さんが苦笑いで突っ込んだ。
 小山くん挟んで口喧嘩しないの、と優しさで溢れたその包容力に、河瀬さんと二人でごめーんと笑う。



「いつもこんなんだけど、笑って流してね小山くん」
「えと…、はあ、」



 夕勤の母である木内さんの言葉に戸惑う新人くん。しかし河瀬さんはやだもー、なんて笑っている。
 和やかな雰囲気にひと安心しつつフロントに入ると、タイミングよく裏から翔君が出てきてフロントに入ってきた。

 定位置になっているマネージャーのパソコンデスクの椅子に座って、客室テレビと同じメイン画面が映っているデスクトップのマウスを弄る。
 メイン画面には今日の占い、なんてメニューがあって、徐にそれをクリックした翔君にイスに座ったまま近付く。



「うお座何位よ」
「六位」
「可も不可もなく」
「ラッキースポット、東京駅」
「広すぎ。全体がラッキースポット?相変わらずシュール」
「双子座、ファミレス」
「あ、行ったじゃん。ラッキーがあるかもしんない」
「ガストでも?」
「ファミレスだしねえ」
「日付変わるけどラッキーなかった」
「俺と一緒のシフトで」
「……妥協点」
「それなー」



 大きくも小さくもなく一定でぽんぽん進む会話が心地好くて、ホントに翔君と喋るのが好きだと改めて思う。
 うしろ側の騒がしさというか賑やかさと切り離されたみたいな感覚も悪くない。


 0時になって夕勤メンバーが次々とタイムカードを切って、お喋りしながら帰っていくと途端に職場は静かになる。
 おっちゃんと木内さんと河瀬さんが揃うと、結構な割合でずっと喋ってるからだと思う。楽しそうで何よりです。



 

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