中編
04
夕勤の時間が終われば、あとは二人でいつも通りに仕事をこなしていくだけ。
既に宿泊で入っている客が出したモーニング予約数を確かめ、冷蔵庫の仕込みを確認して、途中で入室した客の部屋と車ならその番号を外に出て紙に書いていく。
給料日後だから懐に余裕があるのかなかなかの客数だ。
つっても七割でその殆どが休憩。強制宿泊切り換えの前に帰るだろう。見られる限りでメンバーズカードに記録されている使用履歴は切り換え前に退室している客が多い。
メンバーズではない客もいるけど、まあとんでもなくアホでなければ(ちゃんと注意事項を読んでいれば)ちゃんと休憩で帰る。
駐車場から戻りフロントに入ると、顧客情報を見ていた翔君が抑揚なく「二階帰る」と言った。
清算中の文字が出たのは206で、滞在時間は三時間ちょい。よほど酷くなければまあまあ綺麗に保たれている時間。
カラスなぜ鳴くの、という通常より早いメロディーが謎の清算完了の知らせなんだけど、なんでこの曲にしたのか未だに不明だ。マネージャーも知らないらしい。
一組退室に合わせたように、ついで三組の客が清算を開始した。
とりあえず宿泊になるまで待って、それから掃除かなと考えていると、翔君も同じなのか動く気配がまるでない。
まあ部屋に空きは十分ある。一気に入ってこない限りは急ぐ必要ないし、イベントもないし。
「あの新人くん続くかな」
「さあ」
新人が来ると毎回言ってる気がするけど、翔君の返事も毎回一緒だ。本当に興味がないって分かるような返事。
退室してエントランスを抜けていく客を監視カメラが映すテレビ画面に目を向ける。
「夜勤とか入ってくんのかなぁ」
一応四人で回せるが、時折夕勤に人が居なかったり繁盛期になって全体的に人手が足りなくなると臨時短期で募集をかけることがある。
冬に近づいてクリスマスと年末年始という大忙しイベントが待ち構えているために、マネージャーがネットでアルバイト募集を掛けているのを聞いたことがあった。
それを思い出してなんとなく呟くと、翔君が心底面倒そうに「夜勤はいらない」と投げるように言った。
その珍しい反応に少し困惑したものの、続けられた言葉にだらしなく顔が緩んでしまった。
「シフト由貴と被らなくなる」
「……何その突然すぎるデレ可愛すぎる」
ただ単にやりやすいからというのは以前言っていたから分かってはいるものの、改めてそう言われると嬉しすぎてニヤニヤする。
去年のクリスマスだって夜勤四人で十分足りたし、マネージャーも出てくるからぶっちゃけ必要なのは朝と夕だけで夜勤は必要ない。だいたい宿泊で埋まるから夜中や明け方なんかやることない。
忙しいのは日付変わる前で、イベント時は宿泊切り換えも早くなるし、切り換え前に退室した部屋の清掃が一気に来るのと、来客の待ちがかなり多くて列になってバタつくけど。
それさえ越えればやることはルームサービスとか貸し出しくらいだ。イベント時はモーニングやらないしな。
「やだもう翔くん大好き」
「知ってる」
「イケメンなのに可愛いとか罪だわ」
「由貴のが可愛い」
「なんでよ」
「アホっぽいから」
「否めねー」
「アホな由貴が好きだよ」
「俺一生アホでいいわ」
「程ほどにね」
「翔くんが好きなアホでいるわ」
「ホント由貴チョロい」
「翔くんにチョロいだけですー」
「ならいいや」
「なに今日デレの安売りし過ぎじゃない?ドキドキしちゃう」
「セール中」
「可愛すぎる」
もうなにコイツ本当に今日デレ過ぎて困る。ファミレスがラッキースポットってそれ俺じゃね?って思った。
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