短編集(~2019)
11
言いづらいのか、と思ったのはどうやら杞憂だったらしい。
帽子屋は紅茶を一口、話し出した。
帽子屋によると、彼がかつてハートの女王に呼ばれ「きらきら光るコウモリさん」の詩を披露したところ、女王から「時間の無駄」と怒りを買い、それ以来、時間が止まったまま終わらないお茶会を続けているとのこと。
そのためテーブルには無数のポットやカップが並び、順番に席をずらしながらお茶会をしている状態であるらしい。
「きらきら?」
「きらきら光れコウモリさん、一体お前は何してる?この世をはるか下に見て、おぼんのように空を飛ぶ」
…まあ、時間の無駄かどうかは分からないが。
三月うさぎがゆっくりまったり謡ったのを聞いて、とりあえず頷いてみた。
……女王か。
戻り方、なんか分かるかもしんないな。
ぼんやりと考えながら、紅茶を飲んだ。
お茶会は終わらないらしいので俺は先を急ぐために立ち上がり、部屋のドアを開けた。
なんでもない日の歌は、また歌われている。
「……ぁ…?」
ドアの先を想像していなかったが、そこは森だった。
急いで振り向くも、そこに部屋はなく見渡す限り森だった。
「あー…やなヤツ思い出した」
言わずもがなチェシャ猫だけれど。
さっき、三月うさぎが言ってた。
みんな知っている。
俺の名前も姿も知っている。
なぜだろう。
ここは夢なのか?
なんで目覚めないんだ?
パキパキと枝が折れる音を足元に、考えながら進んでいく。方向なんかわかんないし、なにがあるのかも分からない。
そういえば、白兎を見失ったままだ。
「追い掛けなきゃよかった」
いまさらだけど。
あいつ、絶対捕まえてぶん殴ってやる。
「はー…ぁ、どうすっかな」
道標もない。木しかない。
どこまで続いているのかも分からない。
なんか泣きたくなってきた。
「───アリス!」
「───アリス!」
重なったふたつの声が聞こえた。
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