短編集(~2019) 10 「君は何を言っているんだい?」 「……は?」 「草原のど真ん中、だなんて。ねぇ、うったん」 「そうだね、いっちゃん」 同じ相槌しかせんのか、この兎は。 なんて思いながら、首を傾げた瞬間、目を見開いた。 そこは、今しがた歩いていた草原ではなく、どこかの屋敷のような建物の一室だったからだ。 こんな広い部屋があるのは、屋敷しかないだろうし。 見回せば、壁にかかる絵は奇妙で部屋は薄暗い。 テーブルに置かれた蝋燭が、異様な感覚を抱かせる。 「私は帽子屋さ」 「帽子、屋?」 「そう、イカれた帽子屋。こいつは三月うさぎ」 「よろしくアリス」 「なんで、名前…」 三月うさぎ、と呼ばれたまたしても八頭身の兎は笑みを浮かべた。 「みんな知っているよ、アリス」 「そんなことよりお茶会だ」 にこやかな三月うさぎ。 お茶会を続ける帽子屋。 なぜかイスに促され、仕方なく座る。 目の前に並ぶ、ポットにカップ。入れられた紅茶はいい香りがした。 「……さっき、チェシャ猫に、」 「あ!」 「ダメ!」 「え?」 チェシャ猫、と言った瞬間、帽子屋と三月うさぎが同時に大声を出した。 「───…ね、ねねねこ!?ねこヤダ!ねこヤダ!ヤダ!」 「うわっ!!」 と、さらに同時に、ひとつの大きめのポットからいきなり叫びながら飛び出したのは。 「眠りねずみ!落ち着け!」 ねずみだった。 かなり動揺している。 叫ぶ眠りねずみのすぐそばにいた三月うさぎが、ジャムを指をつけて眠りねずみの鼻に思いっきり押し付けた。 え、と思ったら、眠りねずみは落ち着きを取り戻しポットの中に戻っていった。 「………」 「アリス、さっきの言葉は禁句だよ」 「……ハイ」 帽子屋に言われ、頷いた。 ねこ、が禁句なんだろう。まあ、いいや。 「なんでここでお茶会を?」 紅茶をいただきながら聞けば、帽子屋が明後日の方向を向いた。 なぜ。 [←][→] [戻る] |