短編集(~2019) 03 「っ、ばっかじゃねーの!」 ばたん、と部屋の扉を勢いよく放り、アパートの2階から、細い道路へと階段を駆け降りる。 どんよりとした空に顔を歪めて、場所を考えずにとにかく走った。 ばかやろう、バカヤロウ。 ハゲちまえっ、ちくしょう。 ケンカした理由。思えばくだらない事だった。 くだらない事だったと思う。 けれどそんなくだらない事で、興奮して僕は逆ギレして部屋を飛び出したわけだけど。 遠くで、低く唸るような音が聞こえた気がして、びくりと心臓が強張る。 立ち止まって空を見上げれば、昼時にも関わらずどんよりと重たい。今にも雨が降り出しそうだ。 「………っ、」 ぶるりと身震いして、足を進めてまた走り出す。 見えてきた公園に、飛び込むように入っていって、降り出した雨に打たれて屋根のある遊具に潜り込んだ。 荒々しくなった息遣いと、若干濡れた身体。 「……、よわ」 ぽつりと零して、視線を自分の手に向ける。 ぶら下がったままの手は、かたかたと震えていた。 ------------------- 雨が大嫌いな愛しい人の気配を、無意識に探して雷に耳を塞ぐ恋人。 乾いた唇を舐めたら、甘かった。 [←][→] [戻る] |