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白と黒
花摘と記憶
朝7時アリアはお祖母ちゃんの家にいた。


今日は待ちに待ったパンを焼く日

朝の太陽の熱で焼くパンはとても美味しい。


お祖母ちゃんが腰を曲げながら太陽に向かって両手をあげる。


「すー。」

息を大きく吸い、勢い良く声を出す。


「キェーーーーー!」

朝っぱらから迷惑なお祖母さんだ…。


すると、暖はみるみるうちに温度が上がり、そのうちパンの焼きたての良い臭いがしていた。


「わー、美味しそうな臭い!」

「そりゃー、美味しいさ!なんたって朝の太陽は違うからねぇー。」

「うん!」

「さてと、焼けてる間にお茶にでもしようか、まだ時間はかかるからねぇ」

お祖母ちゃんは腰を叩きながら椅子にすわり、入れていた紅茶を飲み始める。


「ねぇお祖母ちゃん?その紅茶の葉もらってもいい?」

アリアは机に近寄り、きれいなガラスの中に入っている紅茶の葉を指差す。

「あぁ、良いさ袋に入れて持ってお行き。」

そういうとお祖母ちゃんはキッチンから、可愛いピンクの袋を取りだし、紅茶の葉を入れて口を縛った。

「ありがとう!」

それを受け取ったアリアは嬉しそうに鞄の中に入れて、パンを焼いている前に座った。

「女王様にも持っていくのかい?」

「うん!!あと、もうひとつ持っていってもいい?」

「あー、良いさ、アリアちゃんが作ったんだ、アリアちゃんの好きなだけ持って行ったらいいんだよ。」

お祖母ちゃんはそういうとハッハッハッと笑いながら紅茶を飲みほした。

やがて、パンの焼きたての香ばしい臭いが辺りを包み、お祖母ちゃんは暖からパンを取り出す。

パンは全部で20個作っており、どれも美味しそうにな焼き色を付けていた。

「わぁー、美味しそう!!」

アリアはパンを覗き、どれを持って行こうか迷っていた。

「あら熱がとれてから袋に入れるんだよ?」

「はーい!」

アリアは元気よく返事をすると、袋を横におき、おばあちゃんと向い合わせで座り、注がれていたジュースを飲む。

「そういえば、どうしたんだい?いつもより、パンを多く持っていくけれど。」おばあちゃんが椅子に座り、紅茶を入れながらふと聞き返す。

「うん!あげたい人がいるの!」

「お友達?」

「…うーん、まだ…かも。」

「ふふ、どうしたの?」

お祖母ちゃんは話ながらアリアにジュースを注ぐ。

「ありがとう!うーん、何だか嫌われてる気がして。」

「あらまぁ、…でも大丈夫よ、その美味しいパンを食べたらきっとお友達になれるさ。」

「本当かな?」

「ああ。」

「それだったらいいなぁ。」

アリアはジュースを飲み干し、パンのあら熱が取れたことを確認すると、パンを袋のなかに一つでずついれていった。

「さー、いっておあげ?友達のところへ、後片付けは私がするよ。」

お祖母ちゃんが優しく微笑むと、アリアは良い返事をして家を後にした。

まだ、時間も時間でまだ人はそこまでおらず、目立つことなくアリアはあの場所へと急いだ。

昨日の母の言葉が頭を過る。

<森へは行ってはだめよ?>

(…大丈夫だよね?ちょっとパンを渡に行くだけだから)

アリアはそう言い訳をして、森へと足を急がせた。

町から少し離れた所の川、そこに掛かる一本の古い橋を渡ると、そこはもう森。

アリアはまた森の中へと入っていった。

(男の子…いるかなぁ)
森の中はやはり、見たことの無い食べ物や葉っぱ、動物がたくさんいた。

その時…どこからともなく蝶が現れる。

黒くて大きい羽。

「デスタン…バタフライ…?」

そう、本で見たあの蝶だった。

今度は二匹一緒に来ていた。

まるでアリアを誘っているかのように舞いながら、二匹は楽しそうだ。

<運命を知ることができる蝶>

あの言葉を思いだし、アリアは直感で(このこ達について行ったらあのこの所へ行けるかも。)と思った。

アリアは足を前に出し、蝶についていくことにした。


だが、追いかけて僅かでアリアは蝶を見失う。

「う、うぅ、どうしよう…また見失っちゃったよぉ。」

アリアは途方に暮れながらとにかく進むことにし、草を掻き分けて進んでいた。

その時、結構近くで、薪を割る音が聞こえる。


カン!


カン!


カン!



「…?」

アリアは何も考えずその音がする方へと足を進める。

深い林を抜けるとそこは川沿いに開けた所にポツンと一つ家が建っていた。


「…ここは…。」

どうやら薪を割る音はこの家の裏から聞こえているようだ。

「…。」

意を消して、恐る恐る家に近づく。

壁づたいにゆっくりと、裏を覗こうとするが、近くにある木のバケツに足を当てて、音を出してしまう。

からん


「…!」



そのあと、薪を割る音は消える。

そして、足音がゆっくりと近づいて来る。

恐怖でか足がすくみ、アリアは瞼を固く閉じる。


「…誰だ?」

アリアは聞き覚えのある声にふと頭をあげる。

そこには昨日の少年が薪を持って立っていた。

「あ、あなたのお家だったの?ビックリした。」

アリアは胸を投げ下ろす気持ちで、ふぅー、と一つため息を吐く。

「お前…。」

アリアは再び彼の顔を見ると、…やはり無表情と言うよりかは怒っているに等しい顔だった。

(ど、どうしよう…また怒らせちゃった。)

すると、彼はアリアを無視し、切った薪を拾いだした。

「あ!て、手伝うよ!」

アリアも必死に薪を集めるが、男の子は何も言わないままそそくさと薪を集める。

薪を縛ると、横にあった薪の積み場に置き、彼は家に入ろうとする。

「ま!待って!」

服を掴むと、彼は怒ってますオーラを出しながら振り返る。

「あのね、今日お祖母ちゃんの所でパンを焼いたんだ!この間のお礼したかったから、良かったら食べて!」

アリアはパンを渡すと、男の子はジーっとアリアの顔を見て、ため息を吐く。

「はー、お前さ、こんな所にいても良いのか?町の奴だろ?とっとと帰れよ。」

再び中に入ろうとする彼を必死にアリアは止める。

「ま、待って!…あのぅ、そのぅ、ここに来るのはいいの!だから…この間の…お礼…だから、貰って欲しいの…め、迷惑?」

「…物凄く迷惑!」

「ふぇ!…ご、ごめんなさい。」

「…はー、モー良いよ、さっさと帰れ…。」

無言でパンを差し出すアリアに、彼はサッとパンを受け取り、中へと入っていった。

戸を閉めたあと、アリアはパンを受け取って貰えたと、内心嬉しくなったが、新たな問題が頭を過る。

(か、帰り道が分からないよぉ!)

またしてもアリアは、ドアをノックする。

「あ、あのぅ、すみませーん。」

バタン!

すると、ドアが一気に開き中からどす黒いオーラを発した男の子が、顔に「物凄く迷惑」と書いてあるんじゃないかというくらい、迷惑そうな顔をしていた。


「何なんだ!お前は!今度は何だ!」

「あ、あのー、帰り道が…分からないんです…。」

「だったら来るんじゃねー!」

「は、はいー!」

男の子はイライラしながら、道を案内する。

「まったく…着いてこい。」

「は、はいー!」

(う、うぅ、また怒らせちゃった、今度は道を覚えないと!)


アリアは右手で拳を作り、辺りをキョロキョロとする。

それを見た男の子は、ため息も出ないほど呆れて物も言えなかった。

(何なんだよ、コイツ…。)

(うーんと、何処か目印は…。)

思い思いに思考を巡らせている時だった。

アリアがふと、お花畑があることに気がつく。

この間よりずっと広がった花にアリアは心奪われた。

「うわー、ねー、ねー、お花摘んでも良い?」

「…花摘んだら帰れよ…。」

「うん!待っててね♪」

「いーから早く摘んでくれ!」

「お、は、はい…。」

アリアはお花畑に走ると思い思いの花を鞄に入れる。

(わー!綺麗!!そうだ!あのこにも摘んだら喜んでくれるかな?フフ。)

そう思考を巡らせながらアリアは花の冠を作ると、急いで彼の元へと戻った。

「…。」

「ごめん、ありがとう!待ってくれて!はい!これどうぞ!」

アリアは背伸びをして、男の子の頭に冠を乗せる。

「…!」

その時、男の子の記憶がふと、流れ出す。


<おかあさーん!!>

<ほらほらそんなにはしゃいじゃって…はい、ハリスの分、お母さんの分。>

茶髪のショートカットの女の人は男の子の頭にお花の冠を乗せ、自分の頭にも乗せた。

<ありがとう!>

<似合ってるわよ♪それじゃー家に戻ろうか>

<うん!>

男の子は母親と一緒に自宅へ戻っていく。

とても笑顔で、幸せそうだった。

「…どうしたの?」

「…え、…何でもない。」

アリアの問いかけで我に戻り、ふいっと向きを変える。

「…?」

「…行くぞ…。」

「うん…。」

男の子の中にずっと流れてくる記憶。

<お母さん?どうして泣いてるの?>

<…ごめんね、ごめんね。>

<…どうして謝るの?お母さんは悪くないよ?>

<…ごめんね。>




「…。」

「…は?……え…ねぇ?」

「!!」

ビックリしたのか男の子は間抜けな顔をして、アリアに振り向いた。

「な、何だ!今度は!」

「あの、私まだ、あなたの名前知らなかったから…私はアリア!!!貴方は?」

「何でお前に言わないといけないんだよ。」

「お前じゃないよ!アリアだよ!!ねー、名前は?」

「…(あー、うぜー。)はぁー、ハリスだ…。」


「じゃー、はーちゃんだね!」

「何でそうなるんだよ!」

ハリスは呆気に取られた顔をしながら、突っ込む。

「うーん、何かそっちの方が言いやすいし…宜しくね!はーちゃん!」

満面の笑みでアリアはハリスにてを差しのべる。

「はぁ?もー、会わねーだろ!」

「え?でも…うんと、あのぅ。」

「モーつくから!!一言もしゃべるな!!」

「…はい。」

しゅんとなるアリアをハリスは無視し、ズシズシと進み始める。

やがて、出口が見えてきて、ハリスは振り返る。

「あそこだ!さっさと出て二度と来るなよ!」

そう言い残しハリスは元来た道を戻ろうとした。

「あ!あの!」

「はぁ?」

「ありがとう!またね!」
そう言い残しアリアは出口へと掛って行った。

それを見つめていたハリスは一人でボソッと突っ込む。

「もう来るなって言っただろうが…。」

その時、先程の記憶がよみがえる。

<はい、これどうぞ!>


<じゃー、はーちゃんだね!>

<ありがとう!またね!>


「…はー、疲れた。」

どうしても、忘れられない。

(何年ぶりだろう、俺の名前を呼んだ奴は)

内心そう思いながら、ハリスは草むらを別けて進んでいった。





一方アリアでは…。

(今日は楽しかったなー、今度は迷子にならないようにしないと!)

また森へいくき満々だった。

アリアの足取りは軽快にステップを踏んでいた。

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