白と黒
エイミの思い
<ハリス…町の人を嫌いにならないで?>
<何でだよ!こんな酷いことまでされて!>
黒髪の女性は小さい少年を抱き寄せる。
<…きっと、あなたを思ってくれる人は現れるわ…だから、嫌いにならないで…町の人達を。>
男の子の目からは涙が溢れていた。
<…母さん…俺…の何がいけないんだ?>
<…ごめんね、ごめん。>
<俺…何か悪いことしたのかよ。>
黒髪の女性は無言で首を振り、少年の頭を撫でながら泣いていた。
<何で母さんが謝るんだよ。>
<…。>
<…ごめんね。ハリス…。>
「あ!」
ハリスはベッドの上で目を覚ます。
「…はぁ。」
ため息を吐きながらベッドの上を見ると、そこにはアリアが今朝持ってきてくれたクッキーが置いてあった。
「…。」
<きっとあなたを思ってくれる人は現れるわ…だから、嫌いにならないで。>
母の言葉が頭をループしていた。
ハリスはまた横になり、月夜に照らされながらまた眠りにつこうとしていた。
翌日やはりと思ったがまたアリアは来た。
「…。」
「ニコニコ!」
「…。」
「ニコニコ!」
「…はぁ、もう、言うの疲れた。」
ハリスはほとほとあいそがついたように部屋に入った。
「ねー!ねー!はーちゃん!今日は何して遊ぶ?」
「昨日も遊んでない!」
「ふぇ、…。」
急に無言になるアリアにハリスは横目でチラッと見ると、アリアは何だか悲しそうな顔をしていた。
「…私はーちゃんとお友だちになりたい…だって。」
「…。」
「だって!初めてなんだもん!こんなに楽しく話せるの!」
「俺は楽しくないけど。」
「うぅ、何ではーちゃんそんなに私の事を嫌うの?私悪いことした?」
アリアは玄関に立ったまま、ハリスに話し掛ける。
「…嫌いだから。」
「…うぅ、何で嫌いなの?」
「町の奴は皆同じだからだ。」
そこでアリアの空気の読まないボケがかまされる。
「え?皆同じ顔してるかな?でも、道具屋のおばあちゃんと、お菓子屋のお姉さんは全然違うよ?」
「…。」
ハリスはため息をつき、何も突っ込む事をしない。
「それに、私とお祖母ちゃんも顔は違うよ?」
「もーいいよ、さっさと帰れ。」
片手で払うように動作をするとハリスはそっぽを向き、何も聞こえないふりをする。
「うー、はーちゃんの言ってる意味がわからないよ…だって、他の人と顔は一緒かも知れないけれど、私は私だよ?」
「…はぁ、耳鳴りが。」
「もー!はーちゃん!耳塞がないでよぉ。」
すると、ハリスはいきなり立だし、アリアを外に追い出す。
「いいか!これから俺のする事をよーーーーく見とけよ!
「は…はい。」
アリアは何故か正座をし、ハリスをジーっと見つめた。
「…あ、いや、そこまで見なくて良いけど。」
「じーー。」
「…。」
その時だ。
ハリスが手を川にかざす。
すると、川から無数の水の玉が作られ、ハリスの周りを浮遊する。
そして、それは次第に湯気を放ち、ハリスが木を指差すと、水の玉は木へもう突進し、破裂する。
「蒸発寸前だから火傷するぞ。」
木はジューっと音を出し続けている。
ハリスはアリアを見て、こういった。
「分かったか?俺は!黒魔導師なんだよ!お前は白魔導師だろ?」
アリアは、初めて見る光景に目を奪われ、なんと言う反応をとって良いのか分からずゆっくりと立ち上がった。
「お前も黒魔導師は嫌いだろ?だから俺も白魔導師のお前は嫌いなんだ!」
「は…はーちゃん…黒魔導師だったの?」
「ああ。」
俯くアリアにハリスは冷たい目で見つめていた。
(こいつも、所詮は皆と一緒なんだ。)
「す。」
「はぁ?」
「すすすす、凄いよ!はーちゃん!今のなに?どうやったの?私にも出来る?」
目を輝かせ、顔をズイッと近づけるアリアに少し戸惑ったハリスは何故か敬語になる。
「あ、あの、何にもしてないです。」
(こいつは…最強のバカか?)
「うわー!!感動だよ!絵本の中の黒魔導師さんと本当に会えるなんて!凄いよ!わー!!」
「…お、お前おかしいだろ…頭。」
「え?何で?」
「いや、何でって!(こいつある意味最強だ)普通は嫌いになる所だろ!」
「…。」
アリアは少し考えるが満面の笑みで答える。
「何で?」
「え!?(やべー、なんだよ!このボケは!)いや、何でって言われてもさ、普通は嫌うって。」
「…うーん、よくわからないけれど…絵本でね!黒魔導師さんが戦ってる所の絵があるんだけど!とってもカッコいいんだよ?昔ねオアシスに水を入れようとして失敗して、たくさんのモンスターが出てきたみたいなんだ。」
「はー。」
ハリスは呆然とその話を聞いていた。
アリアの顔は今までにみたことのない、生き生きとした顔だった。
「でもね!黒魔導師さんが、皆を守るために!必死に頑張ってくれてたんだって!だからそんなはーちゃんを嫌いになったりしないよ!」
「…(…どんな本なんだ?)はぁ。」
「うん!」
アリアは右手で握りこぶしを作り、やはり生き生きと目を輝かせている。
「…フッ。」
「え?」
初めて見たハリスの笑顔だった。
「…お前ほんとにバカだな。」
「初めて笑ってくれた!はーちゃん笑顔の方がずっと似合うよ!」
その言葉を掛けられた瞬間ハリスの顔が真っ赤になり、またしてもそっぽを向く。
「うるせぇ!やっぱりお前は嫌いだ!」
「え!えぇ!な、何で?!」
「嫌いって言ったら嫌いなんだよ!さっさと帰れ!」
「うぅ、じゃー!明日も遊ぼうね!」
「今日も遊んでないっての!」
「遊んだってば、それじゃ!またねー!」
アリアは手を振りながら、林の中に戻っていく。
「…変な奴…。」
ハリスはそれを見届けると、家の中に入り、小さなメモ帳を本棚から手に取った。
その手帳には「エイミ」と書かれてあった。
ハリスは手帳を見ることなく、食材を取りに家を後にする。
誰も居なくなった部屋で、その女性はニコリと笑いながら、手帳に手を伸ばした。
半透明の体。
すきま風で手帳のページが捲られる。
それはハリスの母エイミの日記だった。
エイミは半透明の体で、少し嬉しそうにその手帳を眺めていた。
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