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愛を語るよ
タッツミー大好き!なジーノです




今日の王子様は練習の間ずっと眠そうな顔をしていて、ピッチの中で何回も小さく欠伸を噛み殺していた。自分にはいまいち理解できないけれど、いつでもどこでも優雅で美しく、が彼の信条だろうと思うのに。うわぁ、今日は何だか珍しいもん見ちゃったな。達海はそんな風に思いながら、眠気のせいでいつも以上にやる気なさげに歩いているジーノを見つめた。本当に珍しい。こんなジーノを見るのは多分初めてのことであり。だからなのだろうか、普段と様子の違う彼のことが何となく気になってしまっていて。全体の練習が終わって選手の皆がグラウンドから引き上げて行く中、達海はちょっといいかと声を掛け、一番後ろを歩いていたジーノを呼び止めた。


「ジーノ、お前…今日の練習中ずっと眠そうだったよね?まぁ、その…夜遊びしたいっていう気持ちは分からなくもないけどさ…練習に支障が出ない程度にしてもらわないとね。」

「夜遊び?何を言っているんだい、タッツミー。」


確かに今日の練習中は眠たかったけれど、夜遊びしていたからだと思われるのは心外だよ。ジーノはそれは違うと形の良い眉を顰めて達海を見つめる。


「ふ〜ん。そうなんだ…じゃあ何でそんなに眠そう…「あぁ、タッツミー!こんなにもボクのことを気にしてくれるだなんて。すごく嬉しいよ。」


達海の言葉に被せるようにジーノが高い声を出す。目を細めて嬉しそうな表情を見せる王子様に達海は少しだけ戸惑った。ジーノはそのまま抱き締めんばかりの勢いで達海に近付くと、瞳を輝かせながら口を開いた。


「昨日はね、朝までずっと君のことを考えていたんだ。」

「は…?えっと、俺…?」


予想もしていなかったジーノの言葉に達海は思わず目を見開いた。この王子様は今、自分のことを考えていたと言った?目の前にある整い過ぎた顔を見つめると、そうだよとどこか興奮した声が返って来た。


「タッツミーの可愛い所や素敵な所、魅力的な所を考えていたらね、ボクったらあり得ないくらいに興奮してしまって、全然眠れなくなってしまったんだよ。だから今日は、睡眠不足でいつもより眠かったのさ。」

「おい、ジーノ。黙って聞いてりゃ、お前何言ってんの?俺が可愛いとかって…」

「うん、君はとても可愛いよ。可愛い所は君の魅力の1つじゃないか。…ボクね、タッツミーの魅力を語れと言われたら、5時間以上は平気で語れるよ。そうだ、練習も終わったことだし、今からでも君の魅力を語ってあげようかな?」

「いいっ!そんなの全力で遠慮する!…っていうかさ、ジーノ、お前ちょっとどころか大分変だって。」


目の前の王子様は誰もが見とれるほどの綺麗な笑顔を浮かべながら、とんでもないことを口にした。まるで心の中に爆弾を落とされたような衝撃に、達海は一瞬何も考えられなくなってしまった。可愛いだとか、魅力的だとか。ジーノは一体どうしてしまったのだろうか。あくまでイメージだが、相手をとっかえひっかえ、女遊びの激しそうなジーノが自分に対してまさかそんな事を考えていただなんて。自分をからかうだけの性質の悪い冗談だと思いたい。けれども真っすぐ向けられる瞳は真剣そのもので。自分は一体どうすればいいのだろうか。あまりに予想外の出来事に達海は無意識にジーノから距離を取った。だが逃がさないよというつもりなのか、ジーノは笑顔を向けたまま優雅な足取りで達海に一歩近付いた。


「タッツミー、ボクはね。」

「ちょっ…これ以上近付くなって。ジーノ!」


これはまずい、キスでもされるのではないか。端正な顔を間近に感じ、達海は反射的にきつく目を閉じた。視界が暗くなる中で不意に右頬を包み込む温もりを感じた。恐る恐る瞼を開くと、優しい色を宿した瞳と目が合った。息を詰めたままそっと視線だけを動かした。達海の瞳の中に幸せそうな表情のジーノが映り込む。こちらに伸ばされた手が壊れ物を扱うかのように頬に触れていた。


「最近、誰よりも何よりも気になってしまうんだ、タッツミーのことが。ボクはね、きっと君のことが好きなんだよ。」

「ジーノ…」


驚かせてしまってごめんね。ジーノは申し訳なさそうに目を伏せると、達海の頬から静かに手を離した。そして眉を下げてどこか困ったような笑みを口元に浮かべると、今日はこのくらいにしておくよと、くるりと踵を返した。


「今のって、やっぱ冗談じゃ、ないんだよね…」


勿論夢でもなく現実に起きたことで。達海は遠ざかって行くジーノの背中をぼんやりと見つめたまま、しばらくの間その場から動くことができなかった。



*****
『タッツミー。あぁ今日も相変わらず可愛いね。勿論可愛いだけじゃなくて、とても素敵だよ。』


『タッツミー。ふふ、寝起きの君は子供みたいだね。思わず抱き締めたくなってしまうよ。ねぇ、今すぐ抱き締めてもいいかい?』


『タッツミー。今日の練習中のタッツミーはすごく真剣な顔をしていて、ボク、馬鹿みたいに見とれてしまったんだ。やっぱり君はフットボールのことを考えている時が一番輝いているよ。』


『タッツミー。ボクはタッツミーを好きになって本当に良かったと思う。でもね、もっと早く好きになっていれば良かったよ。そうすればもっとたくさんの時間を君の為に使えたのに。』


『タッツミー。今日も大好きだよ。明日も、明後日も、この先もずっとずっとね。』


タッツミー。タッツミー。


練習が始まる直前の僅かな時間や練習が終わった後、果ては練習のないオフの日まで、タッツミータッツミーとジーノは達海に会いに来た。邪魔だから毎回毎回来んなよなと部屋から追い出しても懲りることなくきらきらとした笑顔で達海に愛を囁き続けた。さらにジーノは達海に会いに来る度に花を贈る始末で、達海も最初は困惑していたのだが、次第にジーノから花を贈られることに麻痺してしまったのか、花なんか貰っても花瓶がないから飾れないじゃん、どうせなら花瓶も一緒にくれよなと思うようになってしまっていた。


「花を渡すなんてさ、お前って本当に気障なイタリア野郎だな〜。俺にはそんなの絶対無理。」

「確かにボクには半分イタリア人の血が流れているからね。」


嫌みのつもりで言ったのに、ジーノには全く通じてはいなくて、達海はこっそりと溜め息を零した。好きだという相手からの言葉だから、そもそも嫌みとすら思っていないのだろう。今日も練習が終わった後、しばらくして私服姿のジーノが達海の部屋を訪れた。勿論その手には小さな花束が握られていて。綺麗な薔薇の花だよと、ふわりとした笑顔と共に手渡されたのだった。


「好きな人には花を贈りたいと思うに決まっているんだよ、男なら誰でもね。」


楽しそうなジーノの声に勘弁して欲しいと達海は思った。こんな風に会いに来て、さらには花まで贈られて。本当に困っているのだ。なのに。それなのに。何故か達海はジーノを拒否することができなかった。ジーノが会いに来ると、結局部屋の中に入れてしまっていたし、花だっていらないと返すことができず、お気に入りのジュースの空き缶を花瓶代わりにしていた。いい加減にもうこんなことはやめろよ。ジーノにはっきりとそう言わなければならないと思っているのに。目の前の幸せそうな笑顔を見る度に、口に出そうとした言葉を飲み込んでしまっている。達海はいつもジーノに強く言うことができなかった。それは何故なのだろう?もしかしてあの笑顔に絆された?いや、絆されるなんてあり得ない。あり得ないのに。


「あのね、タッツミー、今日贈った薔薇の花言葉はね、あなたを愛しています、なんだよ。シンプルだけどボクの想いを込めたんだ。」

「ジーノ…」


だからそんな風に真っすぐに見つめないで欲しい。幸せそうに微笑まないで欲しい。あぁもう調子が狂う。ジーノが真剣であることが痛いくらいに伝わってくるからこそ、達海はその想いにどう接していいのか分からないままだった。



*****
練習がない日はそれこそ1日中対戦チームの研究に時間を充てられる。達海は、凡そ人が住むのに相応しくないと思われる小さな部屋の中に閉じこもって、ずっとテレビ画面に集中していた。試合映像に夢中になってしまうと空腹さえも感じなくなり、達海は昼食を食べることも忘れてひたすら頭の中で情報を整理していた。


「あ〜何か、さすがに腹減ったかも。」


窓の向こうを見れば、外はうっすらと茜色に染まり始め、そろそろ夕方になろうとしていた。達海はキリのいい所でテレビを消すと、買い溜めておいたアイスでも食べようかなと部屋を出た。そのままのんびりと廊下を歩いていると、事務室に灯りが点いていて誰かの気配がした。今日は確か休みのはずだよなぁと思いながらひょいと中を覗いてみると、チームの頼れるGMである後藤がパソコンのキーボードを叩いていた。どうやら休日返上で仕事をしているようだ。達海はそのまま静かに室内に足を踏み入れると、後藤の隣に座り込んだ。


「ごとー、今日も仕事なの?お前もよく頑張ってんな。」

「…っ、…何だ、達海か。集中していたから驚いたよ。」


後藤はキーボードを叩く手を止めると、そのまま達海の方に向き直った。達海も後藤をじっと見ていると、昔からの友人は最近何かあったのか?と優しく訊ねてきた。自分はそんなに顔に出やすいタイプではないと思っていたのに。不意に瞼の裏にここ最近すっかり見慣れた笑顔が浮かんでしまって、達海の肩が小さく跳ねた。


「うん、その…何ていうかさ…最近ジーノに追い回されてるっていうか、気に入られちゃったっていうか…」

「そうか、王子と仲良くやれてるのか。選手と監督がちゃんとコミュニケーションを取れているのは良いことなんじゃないか。」


良かったじゃないか、仲良くやれてるなら問題ないなと、後藤は達海とジーノの関係をそれこそ男友達の延長くらいにしか考えていないように見えた。けれども達海の中ではそんな単純なことではなかった。好きだよ大好き愛してるんだと愛を囁いてはボクの想いを受け取って欲しいと真剣な瞳を向ける。ボクはタッツミーが一番なんだよと綺麗な笑顔を向ける。けれども達海は、自分に一心に注がれる愛情には全くと言っていいほど慣れていなくて。だからこそジーノの想いに戸惑うしかなくて。それでも何故だかあの笑った顔が気になってしまっていて。


「あのね、後藤。俺とあいつは別に仲がいいとかそんなんじゃなくて…」

「こんな所に居たんだね、タッツミー。」

「えっ!?ジーノ…何でお前…」

「ははっ、噂をすれば何とやらだな。」

「もう、独り占めは駄目じゃないか、GM。彼はボクのなんだよ。」


突然2人の前に現れたジーノは悠然と微笑むと、タッツミーは返してもらうよと後藤に告げて達海の腕を取って歩き出した。ジーノに腕を引かれたまま、達海は先ほど出たばかりである自分の部屋に戻って来た。


「お前、今日も俺の所に来たのかよ。」

「だって、君会いたくて堪らなかったんだ。」


資料やDVDが山のようになっている小さなテーブルの上に達海の知らない花が置いてある。達海は視線を戻すと、なかなか手を離そうとしないジーノを見つめた。


「いい加減に手離せってば。」

「タッツミー…」

「…っ、」


引き寄せられ、強く抱き締められる感覚にそのまま息が止まりそうになった。甘い香りが自分を包むのが分かって、ジーノの香水の匂いだと甘く痺れた頭で思った。


「好きなんだ、タッツミー。」


好きなんだよ。切なげな声が耳元で響いた。あぁ本当にもう、どうしてくれる。まったくこの王子様は。達海は小さく咳払いをすると、自分を抱き締めている相手に話し掛けた。


「あのさ、今後は花とかそういうのはいらないから。」

「そんな酷いこと言わないでおくれよ。ボク、そんな風に言われたら悲しくておかしくなってしまうよ。」

「何だよ、ほんと面倒くさいな、お前。ちょっと黙っとけ。いい?花はもういらないから…だから…これからはさ、美味い飯でも奢ってよ。」

「タッツミー!」


ジーノの表情がみるみる明るくなっていき、花が綻んだような笑顔に変わった。


「言っとくけど、別にお前と一緒に飯が食べたいんじゃなくて…俺はただ美味しい物が食べたいだけだかんね。そこんとこ勘違いすんなよ。」


タッツミー、ボク嬉し過ぎて泣きそうだよ。あぁ今、本当に幸せだ。達海の言葉にジーノは1人舞い上がってしまっていた。


「ちょっと俺の話聞いてんの?勘違いすんなって言ってんじゃん。」


達海は隣ではしゃぐジーノを呆れた顔で見遣った。目の前の王子様はそれはそれは幸せそうに笑っていたから。結局はこの笑顔にやられてしまったのだろう。まぁいっか、そんな風に思いながら達海もつられるように小さく笑った。






END






あとがき
タッツミー好き好き大好きなジーノにたじだじになりながらも、結局は絆されてしまうタッツミー可愛いです!ジーノはハーフな分だけ愛情表現もストレートな気がします^^


読んで下さいまして、ありがとうございました♪

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