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お部屋デート??
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何度来てもこの部屋はすごいよな。俺の部屋と全然違うもん。やっぱなかなか慣れないな。目の前の上品で高級感漂う部屋を前に、達海は突っ立ったままでいた。


東京の夜景をこれでもかと見渡せるほどの大きなガラス窓。上質な革張りのソファー。何インチか考えても分からなくなるほどの大型テレビ。リビングのすぐ横に備え付けられた高機能なキッチン。全体的に白で纏められているが、小物や家具に赤や黒が差し色として使われており、さながらモデルルームのように達海には思われた。


「タッツミー、そんな所でぼ〜っとしてどうしたんだい?さぁ、早く入って。」


愛車のマセラティを地下の駐車場に停めていた為、少し遅れてジーノが部屋に入ってきた。彼に促されるように達海はソファーに腰を下ろした。



今日は以前からジーノと彼の部屋で過ごす約束を交わしていたので、対戦チームのDVDを見ることやその他の仕事には手をつけず、ジーノが運転する車で彼の部屋に来た訳だ。


ジーノは達海を自分の部屋に誘い、迎えに来る時はいつもスーツやジャケットなどを爽やかに着こなしている。達海は自分を誘うのにそこまでしなくてもいいのになと思っていたりする。正装のようなジーノと違って、自分は練習着や部屋で着るジャージ姿のままで彼の部屋を訪れるからだ。だがジーノは洋服に無頓着な達海を注意することもなく、大切な恋人を誘うんだよ、オシャレするに決まっているじゃないと毎回言ってくるのだった。そして、そんなジーノに図らずも見惚れてしまう自分に彼は気付いているようで、いつも嬉しそうに違った服装でアピールするのだ。



*****
達海がソファーに座ったのを確認すると、ジーノはそのままキッチンに立ち、少し遅い夕食の準備を始めた。料理など全くできない達海と違って、イタリア人の血の流れるジーノは、家庭的な物から本格的なイタリアンまで何でも作ってしまう。


達海はソファーに座ったまま、頭だけジーノの方に向けて料理を作る彼を見ていた。その立ち姿、さらには指先までもが洗練されており、達海は知らず知らずに惹きつけられていた。…本当にびっくりするくらい綺麗なんだよな。時々あいつがスポーツ選手やってるのが不思議に思えてくるんだけど。


「お待たせ。今日はカツオのマリネとカプレーゼを作ってみたよ。」


そう言って両手に皿を持ったジーノが、達海の近くまで来てテーブルに料理を並べた。美味しそうな匂いに達海は急に空腹感が増した気がした。


「ボクは赤ワインにするけど、タッツはこれでしょ。」


ジーノは冷蔵庫から取り出したドクターペッパーの缶を達海の目の前に置いた。達海も知っていることだが、ジーノはこういった甘ったるいジュースなどの飲み物は飲まない。それなのに達海が好きだからという理由で、こんな風に常備されているのだ。ジーノのテリトリーの中に自分という存在が確かに居ることが感じられて、達海は何だかくすぐったかった。


「本当にお前何でもできるよな。吉田、お前いいお嫁さんになれるんじゃね?」

「ちょっと、ボクのことは王子かジーノっていつも言ってるじゃない!…それに奥さんはボクじゃなくてタッツでしょ。タッツミーがボクの奥さんになってくれれば、ボクそれだけで十分だよ。」

「俺、仮にジーノのお嫁さんになったとしても何もできないよ、フットボール以外。それでもいいのかよ?ずぼらな奥さんだぜ〜。」


達海は少しだけ意地の悪い顔をして尋ねてみた。そんな達海の顔を見て、ジーノは恥ずかしそうに俯いた。


「タッツミー、今のはボクの奥さんになることの了承って思っていいんだね?大丈夫!ボク、タッツミーのお世話なんて苦でも何でもないさ。」

「何言ってんだよ。俺、お前の奥さんになるなんて一言も言ってないんですけど。もしもの話に決まってるじゃん。」


達海はそう抗議したが、照れなくていいってば〜、とジーノががばりと抱き付いてきた。達海は空腹で今すぐにでも料理を楽しみたかったのに、いつまでもジーノはじゃれついて離れようとはしなかった。


ジーノの部屋を訪れると、いつもこんな風だ。達海はジーノに振り回されてしまう。初めはそんなジーノに戸惑うこともあったが、今では自分に溢れんばかりの愛情を与えてくれる彼が愛しくて仕方がなかった。


達海は今まで自分には、フットボールがあればそれだけでいいのだと思う所があった。そうやってこれからもずっと生きていくのだと思っていた。だけど。


ジーノに出会ってしまった。彼から惜しみない愛を貰ってしまった。……だからもう、自分にはフットボールだけでいいのだとは思えなくなっていた。ジーノが居ない日々は、もう自分には考えられなくなっていたのだ。



そして、この場所。ジーノの部屋もいつの間にか、フットボールで疲れた達海を癒やしてくれる空間になっていた。ジーノの温もりが感じられるこの場所が、達海にとって大切な大切な場所になっていた。



*****
「あ〜、気持ちいいわ。何かふわふわしてきた。」

「ふふ、良かった。あ、ほら動かないでってば。」



達海は今、ジーノに髪を乾かしてもらっていた。料理を食べ終わった後、疲れているだろうから先にお風呂いいよ、と言われてジーノの言葉に甘えたのだった。


タオル越しにジーノの指が優しく触れる。その優しい感覚に嫌でも意識が集中する。現役の頃にゴールを決めて、チームの仲間に髪を掻き回されることなんてざらにあった。だけどこんな風に、愛しいというように誰かに髪を触られたことなどなかった。


「ジーノ、その…もう十分だから、お前も風呂入ってこいよ。」

「そうかい?タッツが言うなら、ボクも入ってこようかな。」


達海の言葉に頷いて、ジーノは浴室へと消えていった。1人になった達海はそのままソファーに体を沈めた。ソファーに横になっていると、食欲が満たされ、お風呂で疲れのとれた体が睡眠を要求し始め、瞼が重くなってきた。


やべぇ、すげ〜眠い。今日ジーノの部屋に来るからって、昨日も徹夜でDVD見たんだよな…うぅ、ジーノ、悪い。俺もう限界。微かに響くシャワーの音を耳にしながら、達海はうとうとし始めていた。



*****
眠ってはいけないとは思いつつも、達海はどんどん眠気に襲われていた。そんな達海の背後から不満気な声がした。


「あれ?うそ!タッツミー…もしかして寝ちゃったの?はぁ、せっかくこれから恋人の時間が楽しめると思ったのに。」


俺、まだ寝てないんだけど。達海はそう言おうとしたが、眠気には勝てなかった。


やれやれ、仕方がないか。タッツミーはいつも忙しくしてるからね。耳元で呆れたような、それでいて甘い声がしたと思うと、膝裏にジーノの手が差し込まれ、達海は彼に抱き抱えられていた。


「タッツ、ちゃんと食べてる?こんなに軽いとボク心配になっちゃうよ。」


達海はジーノのされるがままに、彼の寝室のベッドに横たえられた。もう駄目だ。俺、寝る。達海は遂に意識を手放し、心地良い眠りに就こうとした。その時、達海はジーノの腕の中に居た。抱き締められたと感じた途端、ジーノの匂いが鼻をくすぐった。


あったかい…ジーノと一緒だと安心する。達海は自然と笑みを浮かべていた。ジーノと一緒だと、こんなにも自分は満たされるのだと達海は薄れる意識の中で思った。


「おやすみ、タッツミー。いい夢を。」


そんなジーノの声が聞こえたような気がして、達海はジーノの腕をそっと握り締めた。




ジーノ、お前が居るから俺はこうやって頑張っていられるんだ。真っすぐに歩いていける。


だから疲れた時には今日みたいにさ、お前の優しさを頂戴よ。それだけで俺は本当に幸せなんだ。





END






あとがき
今回はタッツミーが、ジーノの部屋に遊びに来てもらいました(^^)


ジーノはタッツミーに甲斐甲斐しくお世話することが大好きだと勝手に思っています(`・ω・´)


どこかに出掛けるのも勿論ですが、2人で部屋でらぶらぶに過ごすのって良いですよね^^



読んで下さってどうもありがとうございました(^▽^)

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