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恋愛メランコリー
ジーノ←タッツミーから始まります

タッツミーが乙女です;




やめて欲しい。その先はもうこれ以上聞きたくないのに。


やめて欲しい。誰かのことを考えている、そんな顔を見たくないのに。


お前は俺の気持ちなんて知るはずないけどさ。勿論そんなこと分かってる。


でもね、俺だって傷付かない訳じゃ、ないんだ。




今日の練習も終わったし、医務室の冷凍庫に冷やしてあるアイスでも取りに行こう。そう思い立ってのんびりと廊下を歩き、ロッカールームの前を通り過ぎようとしたら暗い部屋の中に誰かが居る気配がした。だから俺はそのまま足を止めて、ヒョイっと中を覗き込んだんだ。練習はもうとっくに終わっていたから、誰だろうって思って。電気を点けて明るくなったロッカールームには私服姿のジーノが居て、手には携帯電話を持っていた。


「あれ?ジーノじゃん。…どうしたんだよ?」

「あぁ、タッツミーかい。ボクとしたことが携帯電話をここに忘れてしまっていてね。帰る前に気付いて慌てて取りに戻ったのさ。…今夜はデートだから、ないと困ってしまうからね。」

「デー、ト…」

「そうなんだよ。今日は綺麗な夜景を見ながらディナーを楽しむつもりでね。」


形の良い唇が彼女の1人だという女性との今日の予定を紡いでいく。やめろよ。それ以上はやめてくれ。俺はそんなの聞きたくない。これ以上傷付きたくない。胸がつきりと嫌な音を立て、今すぐにでも耳を塞いでしまいたかった。どこか自慢げな口振りのジーノなんて見ていたくなくて、俺は急いでジーノに背を向けると、思う存分デート楽しんでこいよなとロッカールームを出た。虚勢を張らないと、変な顔になりそうだった。無理矢理明るく振る舞わないと、惨めな気持ちになりそうだった。ジーノに心の奥にある気持ちを伝える勇気もないくせに、勝手に傷付いて悲しい気持ちで一杯になって。俺、何やってんだろうな。ジーノが誰とデートしようが俺が文句を言う権利はないし、ましてや行くなよって引き止めることもできない。


「俺って、ほんと馬鹿だな。」


何だかアイスを食べる気にもなれなくなって、俺は来た道を引き返して自分の部屋に戻ることにした。あ〜あ、こんなことならロッカールームの前なんて通らなきゃ良かったのにな。零れ落ちた溜め息が、俺の気持ちをこれでもかってくらいに沈ませていた。



*****
きっかけなんて後から考えてみたら、すっごく些細なことだったりする。俺の場合もそうだった。ジーノのことを好きになっちゃった理由も、周りの奴からしたら本当に小さなことなんだと思う。


まぁ、少し前なんだけどさ。ホームで俺達が試合に勝った次の日のことだった。選手の皆は軽い調整だけのメニューで、練習が終わった後に俺は松ちゃん達コーチ陣とミーティングをしていた。試合に勝ったらそりゃあ俺も思いっ切り喜ぶけど、それで終わりっていう訳じゃない。チームの次の勝利の為にきちんと現状分析をして、勝った試合からも今後の課題や問題点を見つけないといけないんだ。俺は監督として、絶対にETUを強くしなければならない。あいつらが楽しいって思える試合をこれからも生み出していかなきゃならないんだ。だからその日も結構長い時間を掛けてミーティングをしていた。皆で意見を出し合って、次の方向性が一通り見えてきたなって感じでその日のミーティングを終えて。最後に会議室を出たら、優雅に腕を組んだジーノが廊下の壁にもたれるように立っているのが見えた。あの時の俺はまだジーノのことを好きになってなかったし、それよりもジーノが居るなんて思ってもみなかったから、予想外の王子様の登場に驚いて目を丸くしたんだよね。


「びっくりした…ジーノ、お前、練習が終わったってのにまだ残ってたんだ。」

「タッツミー、少しいいかな?」

「うん、別にいいよ。」


多分俺のことを待ってたんだよね、ジーノの奴。何かあったのかな?俺はそのままジーノの言葉を待った。ジーノは真っすぐに俺を見つめると、ふわりと微笑んで昨日の試合のことなんだけれどね、と口を開いた。


「昨日の試合でのタッツミーの作戦がとても素晴らしい物だかったから、ちゃんと伝えておこうと思ってね。楽しい試合ができて、ボクね、興奮したんだよ。」

「えっと、それは…その、ありがとう。…お前、もしかして、それだけ言う為にわざわざ待っててくれてたの?」

「うん、そうだよ。ボクは良い物は良い、美しい物は美しいときちんと伝えるべきだと思っているからね。タッツミーの作戦はそれは美しかったから、今日こそは言っておかなければと思ったんだよ。」


ミーティングお疲れ様。それじゃあね。ジーノはひらりと手を振って、流れるように廊下を歩いて行った。俺はジーノが帰った後も、少しの間その場から動けなかった。初めてだった。自分が考えた作戦を選手から褒められたのなんて。


「褒められちゃったよ、王子様に。…何だろ、すごく嬉しいかも。」


無意識に呟いた言葉通りに、胸の中にじわりと嬉しさが広がっていた。俺の中にはわざわざ長い時間を待ってまで、ジーノがそんなことを言うようなイメージはなくて。だからこそ、こんな風に褒められたことが純粋に嬉しかったんだ。結局その日の夜は布団に潜って瞼を閉じても、優しく微笑んでいたジーノの顔が頭の中に蘇って来て、馬鹿みたいに全然寝られなかった。


そんな些細なやり取りをきっかけにして、俺はジーノのことをはっきりと意識するようになった。自分でも止められないくらいにジーノのことを好きになってしまった。自分でもどうかしてるってことくらい分かってる。フットボールしか知らなくて、それ以外に興味なんてなかったはずなのに。なのに今は、俺の中に確かにジーノが居る。仕事以外の時間はいつも無意識にジーノのことを考えてしまっている。だけどさ、それは一方的な俺の想いでしかないんだ。すごく悲しいことだけどね。



*****
ジーノとの距離が縮まることすらなく、日々は過ぎていって。俺の心の中でジーノへの想いが砂時計の砂のように静かに降り積もっていっても、俺はただどうすることもできなかった。


どうして俺ってさ、こんなにタイミング悪いんだろう。見たくも聞きたくもない物に限って。俺は資料が詰まっているファイルを抱えたまま、廊下の曲がり角の壁に慌てて隠れていた。俺の視線の先には廊下をゆっくりと歩くジーノが居る。練習が終わって着替えも済ませて、多分そのまま駐車場に向かうんだろう。携帯を片手に楽しそうに話しているジーノに胸が痛くて堪らなかった。今日も誰かと楽しいデートなんだろうな。胸に広がるやるせなさを誤魔化すように、次の試合も勝つ為に仕事しなくちゃなと、俺は必死になって自分自身に強く言い聞かせていた。


そう言い聞かせたくせに。部屋に戻った途端、俺は散らかっているテーブルの上に力なく突っ伏していた。これから今運んできた資料を読まなきゃいけないってのに、何もする気が起きなかった。


「ジーノ…」


こんなに辛いなら、好きになんてならなきゃ良かった。だけどもうジーノを好きになる前の自分には戻れない。どうにもならなくても、ジーノが好きって気持ちは、俺にとってなくしたくない大切な物であることに変わりはないからさ。


「くよくよしてちゃ駄目だよな。…よし、仕事頑張らないと。」


前に褒めてくれたもんな。次もジーノがびっくりするくらいの作戦考えてやろう。そうだよ、俺しかできない方法で少しずつ頑張るしかないんだ。俺は自分を奮い立たせるように小さく頷いた。



*****
「タッツミー、相談があるんだけれど…いいかな?」


練習用のジャージ姿のジーノが俺の部屋のドアを控え目に開けて中に入って来た。俺は監督になった最初の頃に、悩みや困ったことがあったら何でも気軽に相談するようにと皆に言っていた。選手と監督でコミュニケーションを取ることは大切だし、俺ができることで少しでもあいつらの力になってやりたかったから。とりあえずベッドにでも座りなよと俺が声を掛けると、ジーノはそれだったらタッツミーも一緒に座ろうと、ベッドをポンポンと叩いた。緊張するから嫌なんだけど。さぁどうぞと王子様が笑い掛けてくるもんだから、俺は仕方なくジーノの隣に腰掛けた。


「…でさ、相談ってのは?…休みが欲しいとかはナシだかんな。調子が良くないなら別だけど。」

「それは問題ないよ。」

「そうなの?それは良かったけど、じゃあ…」

「ボク、最近デートをしているとね、女の子達から上の空だとか全然楽しそうじゃないって言われるようになってしまったんだよ。」

「ちょっ、ジーノ。俺にそっち方面の相談はやめろって〜。俺に相談しても何も解決しないよ。」


笑ってそんな風に返したけど、俺は上手く笑えたかどうか分からなかった。ジーノからの恋愛相談なんてまっぴらだ。やめろよ、ジーノ。


「自分自身でもそうだろうと思っているんだけどね、ボク…最近気になる人が居るんだ。どうやらその人のことを本気で好きになってしまったみたいで。」

「本気で好きに…」


そっか、ジーノ、真剣に恋してるのか。決定的な一言を貰ってしまったら、俺にはもう為す術はないんじゃないの?どんなに頑張ろうと思っても、ジーノの瞳に俺は映り込むことはないんだから。


「なぁ、お前の好きな奴って…どんなタイプなの?」


これ以上聞きたくなんかないのに。聞いたら絶対に駄目なのに。俺の唇は勝手に言葉を紡いでいた。望みなんて絶対にないのに、心のどこかで少しでもジーノの好みに近付きたいって馬鹿なことを考えてしまったみたいで。俺はほんとに自分に呆れるしかなかった。


「そうだね、ボクより年上だよ。だけどね、甘いジュースが好きだったりして子供っぽいような所もあるから、あまり年上って感じはしないんだ。」

「へ〜。」

「その人は、ファッションや身だしなみに無頓着な人で、洋服もあまり持っていないみたいだし、何日も同じ服を着ていたりして。ボクとしては、もう少し気を遣ってもらえると嬉しいかなぁと思うこともあるけど。まぁ、ボクが洋服をプレゼントすればいいだけかな。」


ジーノの話を聞いている限り、今まで付き合ってた彼女達とは随分毛色が違うんだなって思った。すごく綺麗で完璧な人を想像していたから、俺は少しだけびっくりした。


「でもね、1つのことに打ち込んでいる姿はキラキラと太陽のように輝いていて、ボクにはとても眩しく見えるんだ。…すごく頑張り屋さんで、そんな所を好きになってしまったんだけど、ボクがずっと守ってあげたいと思っているんだよ。」


ジーノは俺が今まで見たことのないような綺麗な笑みを浮かべていた。その人のことが本当に好きで好きで堪らない。そんな愛おしむような表情だった。嫌だ。そんな顔しないでよ。お前は俺以外の誰かにそんな顔を見せるのかよ。もう駄目だった。胸が軋んで耐えられそうになくて、俺はそっと俯いた。


「タッツミー?」

「ジーノ、お前さ、その人に…告白とかしないの?好きなら告白しちゃえばいいじゃん。相談されても、俺はそんなことくらいしか言えないんだけど。」

「…ちょっと遠まわしだったとは思うけど、一応今、告白はしたよ?」

「は…?」


ジーノの言ってる意味が良く分からなくて、俺はガバリと顔を上げた。目の前には極上の笑みで微笑み掛けてくる王子様が居て。俺の心臓は破裂しそうなほどうるさく騒いだ。


「タッツミーだよ。ボクが好きな人は。」

「は…?えっ、それ…」

「フフ、驚いた顔も可愛いね。……本気で好きになってしまったんだよ。タッツミーをずっと見ていたら、いつの間にかさ。理由なんて、そんな些細なことだよ。」


タッツミーもボクのことを好きってことでいいんだよね?だって今、食べてしまいたくなるほど真っ赤な顔をしているから。甘く甘く囁かれ、吐息が耳元を掠めた。嬉しいのやら恥ずかしいのやらで頷くことしかできずにいると、俺の腰を包み込むようにジーノの腕が回された。それは心地良くて安心できる温もりで。


「…お前の思ってる通りだよ。お前が…好きだよ。俺もすごく小さなことでお前を好きになっちゃったんだよ。だからさ、責任取ってちゃんと俺のこと守れよな。これ、恋人で王様の命令な!」


ジーノに抱き寄せられ、恥ずかしさがもう限界で。俺は冗談めいてそんな風に言っていた。だけどジーノはびっくりするくらい嬉しそうな顔でギュッと抱き締め返してきて。俺はジーノの腕の中で、嬉し過ぎてこのまま死んでしまうかもってくらい幸せだった。






END






あとがき
タッツミーがとんだ乙女で本当にすみません;;ジーノ大好きなタッツミーって絶対に可愛いよねと思ったので(´`)


タッツミーにはジーノのことで色々と悩んでもらいましたが、最後は毎回のように甘くしました。やっぱり2人は幸せが一番です!


読んで下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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