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嘘つきdrunkard 1
お酒にまつわるお話です



ジーノは外見も中身も大層な王子様で何でも完璧そうなくせに、何故かお酒には弱いらしい。らしい、と言うのは、ジーノの酔った姿を何度か見て知っているからで。あいつは酒に酔うと、困ったことに何故か俺の部屋に現れるんだよね。クラブハウスに車で来るはずないから、多分バーとかホテルとか何かのパーティーとかで飲んだ後、自宅に帰らずにここにやって来るんだと思う。しかも酔ったふわふわの頭のままで、俺のことなんか全然気にしない感じで自分の部屋みたいに寛ぐんだよなぁ。ジーノは酔ってる割に顔は全然赤くないんだけど、普段よりテンションは高いような気がする。俺がほったらかしにしてDVDに夢中になっていたり、考え付いた作戦をメモしていると、ベッドに寝転んでいたはずなのに俺にギュッと抱き付いてきたりするくらいだから。はっきり言ってジーノってどう見てもお酒強そうじゃん。絶対自宅で優雅にワインなんか飲むタイプだよな、と俺は思ってたんだけど。まぁジーノと飲んだことはないけどさ、酔うとこんな感じなんだな〜と俺は理解していた。


相手は酔ってる訳だから、いきなり抱き付いたり、甘えたくなって構ってくるのは仕方ないと思うよ。朝まで俺の部屋に居ることも、酔ってる奴を追い出す訳にもいかないから別にいいかなと思ってる。だけどさ、毎回次の日になると酔って俺の所に来たことを全く覚えてないってのはちょっと酷いと思うんだよな。ジーノは俺のベッドで目を覚ますと、あれ?何で俺の部屋に居るんだろうみたいな顔をする。それに二日酔いにもなってないみたいで、いつもすっきりとした表情だし。やっぱりそこら辺はさすが王子様だなぁと俺も変に感心したりしてしまう。ジーノは乱れている髪を整えて、またタッツミーに迷惑掛けてしまったね、と小さく苦笑いをする。俺は対戦チームの研究の為に徹夜なんてしょっちゅうだから、ベッドで寝なくても別に平気なんだけどね。それを伝えるとジーノはいつも良かったとホッとした顔になる。それから少しの間他愛もない本当にどうでもいい話をして、ジーノが俺の部屋を出て行く。酔ったジーノが俺の部屋に来ると、これが毎回のお決まりのパターンだった。


ここまで長々とジーノが酔うとどうなるか話してきた訳なんだけど、実は問題はお酒に酔ったジーノの行動よりも俺の方にあったりするんだ。俺、最近何となくさ、ジーノのことが気になって仕方がない。酔ったジーノに抱き締められると、頬が熱くなって訳もなく胸がドキドキして、ふわふわした気分になるんだよ。最初は抱き付かれても酒臭いし、うっとうしいなって思ってたはずだった。なのにタッツミー、と幸せそうに名前を呼ばれ、綺麗な笑顔を向けられる内に王子様に絆されてしまったみたいで。俺自身、本当にどうしたんだよって思うよ。ジーノは酔って俺にあんなことしてるだけで、別に俺が好きな訳じゃないだろうし。そんなこと俺だってちゃんと分かってる。現にジーノは酔ってる時のことを全然覚えてない訳だし、普段練習で会う時だって、まぁ良く話す方だとは思うけど、監督と選手の立場が揺らぐこともない。でも俺は違うんだ。ジーノがくれる優しい腕の温もりをなかったことにしたくないと思い始めてる。俺の部屋に来たことを何も覚えてないくせに、気軽に笑い掛けて欲しくないと思うなんて。ジーノのせいで、きっと俺はおかしくなったんだ。酒癖の悪いジーノのせいだよ、何もかも。俺がこんな気持ちになっちゃったのもさ。



*****
確か俺は、さっきまで次の対戦チームの過去の映像から纏め上げた資料を黙々と読んでいたはずだったんだけど。後ろから抱き付いてくる人物にそっと溜め息を零した。そんなにくっつくなよ、ジーノ。意識しちゃって仕方ないじゃん。


「フフフ、タッツミー。」

「ジーノ、ちょっと離れろよ〜。資料が読めない。」


いいじゃない、タッツミーにくっつきたいんだよ。普段耳に入る声よりも随分と甘い声が吐息となって、俺の首をくすぐった。


「…だったら大人しくしてろよ。」


はぁいと頷くほろ酔い加減の王子様は俺の背中にべったりくっついて離れる気配もないもんだから、結局俺はジーノを半分背中に背負ったまま資料を読むことを再開した。今日の深夜になって、俺の部屋のドアを勢い良く開けながら上機嫌なジーノが現れた。酔ってるんだろうけど、見た目は本当に普段と変わらないまま楽しそうに笑っていて。そんなジーノを見ていると、やっぱり可愛いなぁなんて思ってしまって、俺は結構やばいんだろうなと悲しくも再確認してしまったんだ。


「タッツミー。」

「…ん?何?」

「何でもないよ。呼んでみただけ。」

「静かにしてろよ、もう。」


俺の背中に体を寄せたまま、肩越しに腕だけを伸ばしてジーノが俺の頬に触れた。突然そんなことをされて俺はどうしていいか分かんなくて、そのまま馬鹿みたいに固まってしまった。酔ったジーノにそんなことをされたのは初めてだった。すぐ近くで目と目が合ってしまい、ジーノの睫毛ってすごく長いなぁなんてどうでもいいことが頭に浮かんだ。


「…ジーノ、もう寝たら?俺、まだ結構時間掛かるから。」


視線を外しながら何でもないように装ってジーノに言った。タッツミーは大丈夫なのかい?と心配そうな顔を向けてくる王子様に笑ってやると、邪魔しちゃ悪いから大人しくするよ、と温かな腕と体が離れた。ジーノはそのまま俺のベッドに潜り込んで子供のように丸くなっていたけど、それからすぐに穏やかな寝息が静かな部屋の中に響いた。俺はジーノが眠ったことを確認すると、色々な物で散らかっているのも気にしないで、床の上にごろりと寝転がった。


「…本当にもう、勘弁してくれよ。」


あんな不意打ちは卑怯だ。ジーノの手の感触を思い出して、自然に頬が熱くなった。これ以上俺のことを掻き乱さないで欲しいのに。


「ジーノの馬鹿。明日には何も覚えてなんかいないくせに、あんなことすんなよ。」


すやすやと静かに眠っているのをいいことに俺はジーノに向かって文句を言った。こんな思いをするくらいなら、もう酔っても俺の所に来なくていいのにと思う。それなのに、ジーノの眩しい笑顔や温もりが忘れられなくて。本当に厄介な王子様を好きになってしまったもんだと、俺は床に寝そべったまま静かに溜め息を吐いた。

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