02 目的の場所に着き、入ろうとするが動かない。 「あの、田辺さ……ん」 早く入れという俺の言葉に戸惑った様子の森下。 「このレストラン、ひょっとして……ものすごく高……い、んじゃ……」 「金のことなら心配すんな。さっさと入るぞ」 こんな場所で飯を食ってもうまいとは思わないが、今日は事情が違うのだ。 「いらっしゃいませ」 「予約していた田辺だ」 「お待ちしてました。一番奥の左側になりますのでご案内します」 「どーも。それだけ分かれば充分だ。案内はいらねぇ」 先導しようとするウェイターを制止する。邪魔だしな。 個室に入ると、森下の様子が変わった。 「なにつっ立ってんだ。座れよ」 目がキラキラと輝いているように見える。 ───チッ…… 俺を見る目とずいぶん違うじゃねぇか。 それはそうと、二人という人数には充分すぎるほどの大きさのテーブルに、どこに座ればいいか迷っている様子。 「二人しかいねんだぞ。そこに決まってんだろが」 目の前の席を指差すと、はいと答えたものの、立ったままの森下。 「さっさと座れ」 俺の声にビクリと体を揺らしながら、やっと座ったところにノックの音。 「ご注文お決まりでしょうか」 「ああ、ちょっと待て。森下、決まったか? 何でもいいぞ。好きなもん頼め」 「あの……何を書いてるのか分からないんです」 「こういう所は初めてか?」 「……はい」 「分かった。酒は飲めんの? 嫌いなもんは?」 「お酒は飲めません。嫌いな物はえっと、辛いものとか……」 予想通りの答えだな。見たままじゃねぇか。 「聞いた通りだ。コイツでも食えるものを適当に酒抜きで」 「かしこまりました。」 「あとはこれとこれと……」 ◆ 並べられた料理の数に驚き目を丸くしている。 「こんなに?」 「さ、好きなもん食え」 「……いただきます」 「おう」 緊張してた割に食うのに夢中だな……そんなにガッツかなくても料理は逃げやしねぇだろ。 「田辺さん……は、食べないんですか?」 「食ってるよ」 「ほとんど食べてないじゃないですか!」 「……お前って本当にうまそうに食うよな」 「だっておいしいから。……そんなに見ないでください」 そこまで赤くなるようなことか。冷や汗をかきながら、真っ赤になるその顔がやけに可愛いく見えた。 「ごちそうさまでした」 「もういいのか?」 「お腹いっぱいです」 「そっか。じゃあここからは真剣に聞け。ちょっと話がある」 話があると聞いたとたんに、不安そうに瞳が揺れた。 「……えと、あ、あの……お話しって……」 「ここに来る途中の約束はどうした」 コイツはすでに忘れてる。 「……あ、」 「二人の時に敬語はやめる」 「……分かった」 「よし、じゃあもう一つ。今の俺とお前の関係は?」 ちゃんと分かってんだろうな? 「……本気?」 あ? 「あれは本気で言った言葉?」 そういうことか…… 二週間前、俺が言った言葉に、森下は確かに頷いた。が、その言葉の信用は得ていなかったわけか。 でも俺はたかが女一人の為に、あんなに緊張することも、胸が高鳴るのを感じるような男でもない。 たかが、ではなく、お前だからなのに。 *←→# |