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05


それから二人で食器を洗った。洗い器に突っ込んどきゃいいのに、何故かやりたがるからだ。ドラマや漫画であるのがやりたかったんだと。
“あたしがやるからあなたは座ってて”って言うのが、愛姫にとっては一つの夢だったらしい。
初めてそれを聞いた時には、なんてお手軽なんだと思った。こんなことで、こんなに嬉しそうに笑うから。
こんな小さな夢が、いったいいくつあるのか知らないが、その顔を見る為なら俺は、どんなことでもできるような気がした。

それからは一緒に家で食ったあとは当然のように、二人並んで食器洗い。
前に一度、愛姫が食器を割ってしまい、お決まりのように指を怪我してからは、あまりさせたくないのが本音だが。本人がどうしてもやるって聞かねぇから、心配な俺は仕方なく一緒にやるようになった。そんな俺の隣では……
何がそんなに嬉しいのか知らねぇが、俺を見上げては満面の笑みを見せる愛姫。

「また怪我するからよそ見すんなアホ」

そう言いながらも、可愛いと思ってしまう自分を冷静に考えてみると、自分で自分が信じらんねぇ。

「おい愛姫、ちょっとこっち向け」
「ん……」

口づけてみると、真っ赤になってうつ向いた愛姫に、素知らぬ顔して俺は皿洗いを続ける。

軽いキスだけでもこの反応。つきあってもう半年。俺的にそろそろ物足りなさを感じていないでもないのだが、23歳という年齢なのに俺が初めての彼氏という愛姫に、簡単に手を出せるわけがない。

「ハイおしまーい!」
「やっとゆっくりできるな」

嬉しそうに頷きリビングに走って行く愛姫。

「今日は何するの? どっか行く? それともDVDでも見る? 」

いや、俺はそれよりも

「こっち来いよ」

ソファに座り愛姫を呼ぶ。

「はーい」

……元気よく返事をしてくれたのはいいが、なんだこの距離は。

「おい、俺はこっちに来るように言ったんだよ」
「……ここでいいんだもん……」

軽く四人は座れるソファの端と端。遠いだろ。

「良くねぇ」

腕を引っ張り、無理やり足の間に座らせた。

「やーだー! じゃあ隣に座るから!」

反抗すんなよ。

「駄目。俺とくっついてるの愛姫は嫌なのか?」
「……いや、じゃ……ない、けど、でも……」

恥ずかしそうに言った愛姫が、可愛くて仕方ない。

「あ、あの、ハル!」

後ろから抱きしめてみると、逃れようと足をバタつかせ始めた。

「あ?」
「ド、ドキドキしちゃう……から」

そりゃそうだろ。意図的に、だからな。

「なあ……俺のこと好きか?」
「…………き……」
「聞こえねぇ」
「……す、き……」
「知ってるけどな」
「ずずずずずるいよ!」

お前の口から出る言葉を聞きたかったんだよ。

「なんのことだか」
「ハルの意地悪!」

そう言って振り向いた愛姫にキスをする。

「……んん!!」

息苦しそうな声をあげるから、仕方なく唇をはなすが物足りない。が、我慢だな。これ以上やるときっと、いや絶対に、止められねぇから。




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