06
愛姫が見たいとうるさかった、どちらかと言えば見たくねぇ恋愛映画のDVDを見せられて、愛姫は当然のように号泣し、俺は当然のように退屈な時間を過ごした。泣かすつもりで作っただろう制作者も、ここまでピンポイントで泣く奴がいてくれたら本望だろう。
「うー……」
「もう泣くな」
涙を舐めとって、キスをしようとしたとたん
「しょっぱくないの?」
だと。なんだその返し。黙って見ていると、
「涙はしょっぱいんだよ? おいしくないのに」
真面目な顔して聞くことか。
「ああ……お前のはうまいんだよ」
何とか甘い雰囲気に戻そうとする俺に
「愛姫のはおいしいんだあ……」
と、呟きながらでかい目をキラキラさせる愛姫。
「いいよー?」
「……なにが」
「今の感動で出た涙は拭かないから」
……どうやらコイツは、変なスイッチが入ってしまったらしい。
“涙は全部あげるよ”
ってことなんだろ?
さあどーぞと言わんばかりに頬を目の前に差し出してくる。
楽しそうにキラキラさせた目。耳としっぽが見えそうなぐらいだ。主人が帰って来た時にハシャぐ子犬みてぇな。
楽しそーだな、お前。
「早く舐めないと涙が渇いちゃう!」
仕方ねーな。小さくため息をつき、渇きかけた涙を舐めた。
「これでいいのか?」
「うん! おいし?」
そんな嬉しいか。笑顔も輝いてんな。
「あ? あー……うまい」
心底嬉しそうな笑顔を見せる愛姫。これでまた確信した。そこらへんの女達とは違うよ。呆れながらそう思ってんのに、やっぱり可愛いと思ってしまう俺もおかしいのか。
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