16 ◆ 目は覚めていても、脳の方は覚醒してないらしく、どうにも頭も体も重い。寝不足もあるんだろうが、たまりにたまった疲労が一気に出たようで、仕事どころか動きたくもねぇ始末だ。 ───週末で良かった。 ふと携帯を見れば、不在知らせの光が目に送られてきて、開いてみれば田中からの着信と、覚えのねぇアドレスのメールが一通。 一件はどうでもいいんだが、覚えのねぇそれは愛姫からだった。 携帯を忘れていたのだから、実家のパソコンからか。番号も覚えちゃいねぇくせに、よく分かったものだ。どうなってんだ、あいつの記憶機能は。 それにしても、いつもは絵文字だの顔文字だと、煩わしさすら感じる内容なのに、今日のは違っている。シンプルかつ簡潔で、まるで仕事相手からのそれのようだ。 “ごめんなさい。 先に帰って下さい。 愛姫” こっちでの都合もあるだろうし、別に一緒に帰るつもりもなかったからいいのだが、らしくねぇ短い文章が妙に気になった。 電話をかけようにも、実家の番号までは把握してねぇ。……携帯を携帯しねぇでどうすんだボケが。 仕方なくこっちに電話をかけるように返信をして、洗面所へと向かった。 連絡を待っている状況の今……とにかく落ち着かねぇ。あれから小一時間ほど経つが、まだ連絡はない。いっそ家まで行ってみるかと迷っている。 あいつの親には、こんなついでにというんじゃなく、ちゃんと、それなりのかたちでと思ってはいるが…… ───正直に言う。別れ際があんなだっただけに、心配でどうにかなりそうだ。 ……まさか変な誤解でもしてんじゃねぇだろうな…… 小さな不安が頭をよぎり、ジワジワと体中に広がることに苛立ちを覚えていると、携帯が着信を告げた。 ディスプレイを確認もせずに通話ボタンを押す。 「愛姫か?」 『じゃねぇよ』 「……用件は何だハゲ」 『その様子じゃ仲直りはまだみたいだな。カッカッカ』 「……何で知ってんだ」 『可哀想な姫は号泣してんぞ』 「は?」 『いや、だから愛姫ちゃんだよ』 「連絡とったのか」 『お前何したの? すごかったんだけど』 「……」 『話聞こうにもあんなに泣いてちゃ……』 *←→# |