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「隠すなよ」
「だって恥ずかしい、よ……」
「他に誰も見てねぇ」
「たた田辺さんは見てるじゃないですか!」
「敬語はやめるんじゃなかったっけ?」
「………」

はっ、コイツって同時に二つのことができねぇタイプだよな。
今となってはそれすらも可愛く見えるのだが。

「田辺さん」
「晴哉って呼ぼうか」
「!!!!」

思ったことがすぐに顔に出るのな、コイツ。分かってたことだが、ここまで素直に分かりやすいとなると、ますます虐めたくなるのは気のせいか?

「言えよ」
「……部長さんだし、あの、だから……」
「ここじゃ違うだろ」
「…………」

なんとか言おうとしてるんだろう、口をパクパクとさせている。

「ほら頑張れ」
「は、は……る……」
「おしいな」

愛姫のもとへ行き、顎をクイっと持ち上げる。

「呼べよ」
「……はる、や……」
「いい子だ」

今度はゆっくりと、軽く触れるだけのキスをする。

「また……しちゃった……」

放心したまま呟くようにそう言った。

「これから二人の時にはどう呼ぶんだ?」
「……晴哉」
「よし、忘れんな」







「なんだよ」

膝の上に置かれた手でギュッとスカートの裾を掴みながら、立ち上がった俺の顔を見上げていた。
唇を尖らせているとこあたり、睨んでいるつもりだろうが、それは意味を成すことなく、上目使いをしているようにも見える。

「えと、はる……や、って……意地悪だと思う」
「あ?」
「だって! 困ることばっかり言う!!」
「そうか? でもお前嫌いじゃねぇだろ」
「そっ、そんなこと「あるよな?」

言いかけている途中に被せてみると、愛姫はまた顔をそらし拗ねた表情に変わる。クシャクシャと髪をかき回してみると、頬を染め始め、すぐに大人しくなる。

愛姫のクルクルと変わる表情を見ていることが好きだ。

「お前……変わるなよ……」
「う……?」
「今のままのお前でいて。俺とつき合うからって変に背伸びしたり、大人っぽくしようとすんな」

それより何よりも……
「不器用だけど素直なお前のままでいろ」

変わってほしくないのはお前のその心だよ。23歳までよくもここまで、すれることなく育ってくれたと心底思う。俺はコイツのように悲しいから泣いて、嬉しいから、楽しいから笑うというのも素直にはできなくなったから。

だから俺とは正反対の愛姫に惹かれたんだと思うし、変わってほしくないと強く願う。

「変わる? ……ってよく分かんない」

きょと、と、首を傾ける。

「それでいい」
「変な田辺さん」
「違うだろ」
「晴哉?」
「おう」

変な晴哉と言い直してはまた首をかしげている愛姫に、妙に穏やかな気分で満たされた。




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あきゅろす。
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