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01


女ってのは何でこうも歩くのが遅いんだ。だいたい離れて歩く理由も分からねぇ。
振り向いてみると、うつ向いたまま、ついて来ている姿が見えた。

「おせーんだよ」

声をかけてみると、両手でしっかりとバッグを抱え、小走りに追いついてくる。

「ごめんなさい」

遠慮がちにちらりと俺の目を見ながら、小さな声で謝られる。

「謝んなくてもいいけどな、できれば隣を歩けよ」
「でも……」
「でも何だ? 不服か?」
「いえ……あ、あの、」
「見える場所にいろっつってんだよ。チビなんだから離れて歩きてぇんなら前を歩け」

怒ってるわけじゃないが、繁華街とはいえ夜道を歩くのに、その姿が目に映らないのは心配になる。
チビなんだからと言ったことが悪かったのか、一瞬目を見開いたがすぐに隣に並んだ。前は歩かねぇのかという俺の問いかけに、首を縦に振り少しだけ目線を合わせ、またうつ向く。

……後ろを歩かれるよりは安心だが、もう少し近くてもいいんじゃねぇのか。

だいたい歩くだけなのに、なんでこんなに息を切らしてるんだ。女とはいえ体力がなさすぎるんじゃねぇのか。
俺の隣を歩いた女は数えきれないほどいたが、こんなに遅くはなかったはずだ。

フゥ──

「ほら」
「あ、あの……」

立ち止まり差し出した手に、驚いているのか戸惑いの表情を見せる。
いちいち遅ぇんだよ。ちくしょうテメェ、もう少し早く行動できねぇのか。一人でこのままいるほどマヌケな姿はねぇだろが。

「さっさと手を出せ」

いつまでも繋がらないことにしびれを切らし、強引に手をとった。
その手を握り、歩き始めると気づいたことがある。歩く速度がえらく遅いのはたぶん、森下は女の中でも小さい部類に入るからだろう。俺とはもちろんのこと、他の奴と比べてもコンパスが違うのだ。チョコマカと足を動かしてはいるが、その違いを考えると遅くてもしょうがねぇらしい。
そしてもう一つ。好きな女の手は……
思った以上に柔らかくて暖かい。

遅い理由が分かり、速度を落として歩いていると、不自然に感じる視線。

「なんだよ」

目線を落とすと、ジッと俺を見ている森下の顔。危ねぇから前を見て歩けとは言わなかったが。
「あ、あの、ゆっくり歩いてくれてありがとうございます」
「俺のペースについて来れねーんじゃ、こっちが合わせるしかねぇだろが」
「すみません……」
「いちいち謝んな」
「はい……」
「敬語も無しだ」
「でも……」

でもじゃねぇ。会社の中じゃあるまいし、今は上司と部下の関係じゃねぇだろが。

「敬語はいらねぇっつってんだよ」
「……分かった。頑張る!」

何かを決心したように首を縦に振った。
頑張るようなことか。

「よし! じゃあ行くか!」

繋がった手に力を入れて、引っ張り歩く。

今まで女のことなんか考えずに、自分のしたいままに行動してきたせいで、コンパスの違いに気づくまでも時間がかかる自分に、苛立ちと情けなさを覚える。

隣には相変わらず赤くなりながら、一生懸命に歩く森下がいて可愛かった。
その姿を見ていると、自分の中にある何かがスッと抜け出て、気分が落ち着いていくような気がした。




───俺にとって森下は……癒し?───




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