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04


「ハル……?」
「……愛姫」
「分かる? お家だよ? ここ」
「……ああ」
「だから安心して眠っていいよ」

ここでまた目が閉じられた。瞼はすうっと落ちたけど、息は苦しそうに荒い。
本当はお薬を飲んでもらいたかったけど、そんな余裕なんてなさそうだった。どうしよう……

「愛姫ちゃん、そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「お薬……」
「たぶん今は寝かした方がいいよ。次に起きた時に水も一緒に飲ませればいい」
「はい……」
「ちょっと疲れが出ただけと思うよ。静かにしてた方がいいからさ、ちょっと部屋出ようか」

そう促されて寝室からリビングに移動した。
お茶を入れて戻ったら、田中さんが物珍しげにきょろりと室内を見ていた。

「しっかしいいとこ住んでんな、田辺の奴。お、ありがと、さすが愛姫ちゃんは気が利くね!」
「……ご迷惑おかけしてすみません。ありがとうございました……」
「あー、いいって別に。ほら、愛姫ちゃんも座りなよ」

不安に思うあたしに気がついているのか、わざと明るく振る舞ってくれているようにも見える田中さん。……余計な気を使わせてしまった。
だけどあんな状態のハルを、今まで見たことなんてなかったから、不安が波のように次々に押し寄せてくる。

「あの、ハルは会社で倒れたんですか?」
「仕事終わってからね。帰ろうと立ち上がった時にデスクに手をついたまま動かないし、気になって声をかけても反応なくてさ。それで近づいてみたら、そのままずるずる〜って感じで」

その時はまだ意識があって、車で帰るから放っとけといつものように言ったけど、どう見ても運転できる状態じゃなかった。代わりに俺が運んできたんだよ、って説明してくれた。

「あいつ意地でも自力で帰ろうとしてんの。弱ってるとこ見せたくないって言ってたよ、愛姫ちゃんに。マジ頑固で格好つけたがりだから、あいつ」
「そんなの……!」

……そんなの変だ。倒れるまで無理をするなって言ったくせに。
こんな時にまで頼られないなんて、自分が情けなくなくなる。
こんなことになるなんて想像もしたことなかったけれど、今までそんな姿を見なかったことがおかしいんだ、きっと。
もっと気をつけてれば良かったんだ……こんなことになるまで気づかないなんて、あたしは本当に役に立たない。

「あー、泣かないでよ! 大丈夫だって! ほら、最近忙しかったから疲れからくる風邪だって! 朝になれば病院も開いてるし心配なら俺が連れてくから! そんなに心配しなくても大丈夫だって!」

思わず泣いてしまったせいで、田中さんがぎょっとした目をして立ち上がった。あたしのほっぺたに指を這わせて涙を拭いてくれて、それでも追いつかずに箱から何枚もティッシュを引っ張り出して、目元に押し当てられた。




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