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自覚があった分、会社から連れ帰った時から反省はしていただろうし、これ以上はしつこく説教しても無駄だ。
この女の性格上、追い込み過ぎると落ちていく一方だということを、俺もいい加減に学ぶべきだ。

「まあ……そうだな。仕事の仕方は褒められたものじゃねぇし、お前は本当に面倒な奴だ」
「分かってる……」
「ただし……まともな仕事を任せられるようになったことも事実だ。上司としては、喜ぶべきことだろうな」
「……え?」
「企画書、報告書。他の奴らと比べても、そう見劣りしねぇ出来だった。状況としては……反省すべきところは多々あるが、お前が努力した分の結果は上々だ」

ここまで言ってから、ようやく上がったその顔。信じられないとでもいうように、丸っこい縁の中に収まっている黒い瞳が、瞼が開いて現れた。
お前が頑張っていたことはちゃんと見ていたと伝えると、その視線が俺の方へと移動して、溜まった水が流れて頬を濡らした。

「よくやった。頑張ったな」

続けてそう言うと、子供のように大声を上げて泣きじゃくった。

愛姫のような女を相手に選ぶと、毎日のように怒ることはあっても、褒めるということは少ない。
よくやったということを告げるだけでもむずかゆいものがあり、本心を俺なりに伝えようとして、どうにも上手く喋れなかった。今この瞬間だけでなく、今までを振り返ってみても、愛姫を褒めてやるとなると上手くいった試しがない。

目の前にある姿を眺めてみて、沈んで流す涙なのか、言葉に喜んでいるのかは泣き出したタイミングを考えると後者なのだろうことだけは分かる。
それでも伝えた言葉に間違いがなかったと自信は持てず、これ以上の言葉を続けるべきなのかも分からなかった。

よくよく選んだ本人らしい、世間一般で言うところでは可愛いんだろう、うさぎが描かれた灰皿の中にタバコをねじ込んだ。
待ってみたところでいつまでも泣き声は響く。
立ち上がり、愛姫の腕を引っ張り上げて抱き寄せた。
落ち着かせる為、とんとんと軽く背中をはたいてみると、腰に愛姫の腕が巻きついてきた。

「あんまり心配かけるなよ。俺まで具合が悪くなる。頑張り過ぎだ、お前は」
「うわーん! は……る……は、ハル……!」
「何だよ」
「っく……うあー……あたし……! が、頑張ったの」
「だから知ってるっつってんだろ」

さんざん泣き喚きながら、やっと褒められたと言ってはまた泣いて喜ぶ愛姫を、追い込んでいたのはやはり自分だということを改めて考えた。




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