02
「何でこんな簡単な資料作りもまともにできてねぇんだ!」
「……ごめんなさい……」
「お前の脳に反省という言葉はインプットされてんのか?」
「ご……め……なさ……」
「明日の会議に間にあうようにさっさと作り直せ!」
「……は……い……」
足を引っ張るなと念じていたが、こういう時こそ失敗する奴がいた。
勤務時間終了がせまっていた時刻に、俺の怒鳴り声が響き渡り、静まり返る社員達。
失敗した女がデスクに戻ると、何人かの社員達が心配そうに声をかけに行く。
「大丈夫? あんな怒鳴んなくてもいいのにねぇ」
「あー……泣くなよ。ほら、俺らも手伝うからやり直そう」
励ましの声と、ポンと肩に乗せられた手。
「恐いよなあ部長。あんま落ち込むなよ」
全部聞こえてんだよ。
「優しく励ますのは結構なことだが……自分達の仕事は終わったのか?」
「まだです……」
「だったら無駄に喋ってんじゃねぇ! さっさと戻って片付けろ! 」
「「「ハイッ!!」」」
泣いている女……愛姫から離れていく。
甘いんだよボケ。気安く触んなカス共。
◆
「お疲れさまでしたー」
次々と帰っていく社員達。俺も立ち上がり出ていこうとした時、田中が声をかけてきた。
「手伝ってやんねーの?」
「ほっとけ」
「皆の前であんなに怒鳴って、しかも一人で残業かよ。相変わらず鬼だねぇ……愛姫ちゃんかーわいそ」
「いいんだよ。自業自得だろ」
「手伝わないと絶対間に合わない」
「その時はその時だ。甘やかしてどうする」
「冷てーの」
「うるせーな! ほっとけっつってんだろ!!」
可哀想だとは思うが特別扱いはできねぇ。俺の立場上、えこひいきはマズイだろが。ただし……
こいつらの前では……だけどな。
「かわいそうじゃん。手伝ってやれよー」
ああ、分かってるよ。
「戻ってやんねーの?」
何も言わずに、戻る素振りも見せない俺に、しつこく言っていた田中が、足を止めた。
「おい」
「俺が戻って手伝う」
クルリと後ろを向き歩きだした。
は? 冗談じゃねー!!
「殺すぞテメェふざけんな!」
慌てて追いかけて肩を掴みながら言い、顔を覗きこんでみると、してやったりと笑った田中の顔。
「じゃ、そういうことで。残業頑張れよー」
やられた…… この俺があんな手に引っかかるとは、自分の馬鹿さ加減にウンザリするがそれよりも。
「じゃーな。愛姫ちゃんによろしく言っといて」
と、ひらひらと手を振り帰るこの男。ふざけんな。腐れ野郎が死ねボケカス。
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