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自分がずいぶんと果報者なんだと、そう気づくことができる人間は少ない。
とは、祖母から子供の頃に、よく聞かされた言葉だ。
世間にそこそこ名前の通った会社での、年齢の割にはと言われる地位にいることが、恵まれているとは決して思わない。
それだけの仕事をしているという自負が、俺にはあるからだ。ついでにその責任も果たしているつもりだ。
俺の中には優先順位というものがあって、その最上階にあるのが仕事だ。
その順位が揺らぐなんてことがあっては、今まで築き上げてきたものが根底から覆されるようなもので、これは大した事件なんだが。
そんな非常時に思い出したのが、あの祖母の言葉だ。
お前は果報者だ、幸せ者だと、反抗期にはそりゃあ口うるさく言われた言葉が、脳裏に反響しながら浮かび上がる。
女が最上階にのし上がる日が来ようとは、夢にも思わなかった。しかしだ、揺らぎつつあるのだ。
「私と仕事、どっちが大事なの?」と、実に馬鹿げた台詞を絶対に吐かねぇ女を相手に、言ってしまいそうになることがある。
仕事なんかどうでもいいだろうが。お前を優先して何が悪い?
スイッチ
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