00 自分がずいぶんと果報者なんだと、そう気づくことができる人間は少ない。 とは、祖母から子供の頃に、よく聞かされた言葉だ。 世間にそこそこ名前の通った会社での、年齢の割にはと言われる地位にいることが、恵まれているとは決して思わない。 それだけの仕事をしているという自負が、俺にはあるからだ。ついでにその責任も果たしているつもりだ。 俺の中には優先順位というものがあって、その最上階にあるのが仕事だ。 その順位が揺らぐなんてことがあっては、今まで築き上げてきたものが根底から覆されるようなもので、これは大した事件なんだが。 そんな非常時に思い出したのが、あの祖母の言葉だ。 お前は果報者だ、幸せ者だと、反抗期にはそりゃあ口うるさく言われた言葉が、脳裏に反響しながら浮かび上がる。 女が最上階にのし上がる日が来ようとは、夢にも思わなかった。しかしだ、揺らぎつつあるのだ。 「私と仕事、どっちが大事なの?」と、実に馬鹿げた台詞を絶対に吐かねぇ女を相手に、言ってしまいそうになることがある。 仕事なんかどうでもいいだろうが。お前を優先して何が悪い? スイッチ →# |