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「違うよ! 画面見ちゃ駄目なの。カメラあそこ」
「どうでもいい」
「駄目ー! あ、もっとにこってして」
いい歳こいて何やってんだろうな……
容赦なく焚かれたライトが降り注ぐ中で、あれやこれやと注文をつけられ、どうしても引きつってしまう表情が、愛姫はお気に召さねぇらしい。……リクエストのプリクラで。
「今度はあっちに移動だよ」
「あ? もう終わったろうが」
「まだです」
「引っ張んなよ!」
フレームだの美白効果だのと、俺にとっては至極どうでもいいことだ。それを何度も選び直しては何枚も撮られ、げんなりしたとこでやっと終わったと思ったら、今度は反対側のスペースに移動させられた。何かと思えば落書きをするそうだ。
最初からうるせぇ空間にいるというのに、さらに派手に音楽が流れ始めた。頭おかしいんじゃねぇのか? こんなもん開発した奴。正常に動く脳ならこんな不快なもん造れるわけねぇ。
「ハルも書いて」
「お前好きにやれよ。俺はいい」
妙に真剣な顔をしていると思ったら、きゃっきゃっと笑ったり写った顔を見て落ち込んでみせたりと、百面相をしながら時間をフルに使い切り、ようやく終了した時には、隣で見ていただけの俺が何故かひどく疲れていた。
「あ、できた!」
嬉しそうに出来上がったものを持ってきて、感想を待ちわびているところ悪いが……これは何だ、詐欺か。
「ハルと一緒!」
「そうだな」
「あのね、初めてなの。男の人と二人でプリクラ」
「そうかよ」
「嬉しいな、嬉しいな」
「良かったな」
実を言えば俺だって初めてだ。また撮りたいと喜ぶ愛姫とは違い、二度とごめんだが。
これといった感想も別にないが、こんな時でさえ、らしさを出すものなのかと百面相は少し笑えた。
「あー!」
ご機嫌に落書きを終えたはずの愛姫がちょっと目を離した隙に消えて、どこに行ったかと思えば叫び声が響いた。
聞こえた方に足を運んで見れば、透明なガラスにべたりと張り付き、ぬいぐるみを取るのに苦戦しているようだ。
「どけ」
「ハル」
「こういうのは基本掴めねぇよう作ってあんだろ」
「えー……うわあ!すごい!」
引っ掛けて落としてやると嬉しそうに取り出し、間抜けな表情の黄色いクマを抱きしめた。
「可愛い! ありがと」
「そんなもん欲しけりゃいくらでも買ってやるよ」
「これがいいの」
買うよりもここで取れるのが嬉しいんだそうだ。俺には分からねぇ感覚だが。
ついでに色違いのような白いクマも取ってやると、アホほど喜びやがった。……こんなもんでそこまで喜べるとなるとある意味うらやましいな。
「満足したならとりあえず出るぞ」
「え?」
「帰んねぇよ。とりあえず、だ」
とにかく外気が吸いてぇ。
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