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好きで、好きで、(円風)




DE後しばらくの話。






今日も、昨日も明日も。
会いたいと思う人がいる。

だからその人の元へ行くための道のりも、また明日会いたいという気持ちも、愛おしく思えるのかもしれない。






下校時刻はとうに過ぎた。
このあとは部活の始まる時間で、俺の一番好きなサッカーの時間だ。
一年生はすでにグラウンドに集合し、それぞれサッカーボールを手にして練習している。
だというのに、裏キャプテンである風丸が来ていない。
気になってあちこち探してみたら、風丸は自身の教室にいて、机に突っ伏していた。
しん、と静まる教室は、どこか異空間のような別室な感じがして、思わず足音を消しながら教室の中へと入っていった。
いつも高く結んでいた髪は下ろされ、水色の髪は海のように机いっぱいに広がっていた。

泣いている…とは思えない。
規則正しい肩の上下する様子を見て、眠っているのかと思い、近づく。
そっと顔を覗こうと屈めば、パチリと視線が合ってしまった。


「……っ?!えんど…っ!!!」
「あ…オハヨッ、風丸」


ガバッと机から勢いよく起き上がる風丸は、俺から視線を外さずに凝視する。
ササッとあちこちに散らばった髪を整えて、まるで女の子のようだ。


「どうして教室の中に…」
「風丸を捜してたんだ。部活、あるぞ」
「……今日は、休む」


ふぃと、視線を外される。
伏せた赤茶の瞳は、どこを見るわけ出もなく、空(くう)を見ていた。
‘俺’を無いものとして見ているかのように。
風丸が、俺の事を見てくれない。
目を、合わせてくれない。
それが、すごく怖くて嫌だった。


「風丸…俺のこと、避けてないか?」
「……どうしたんだ突然、」


どうもよそよそしい。昔は目なんて合わせなくても互いの考えていることが判りすぎていたのに。
今の風丸は、まるで考えを読もうとする俺から逃げているようだ。

考えを読ませないように。
逃げて、逃げて、逃げている。


「…俺はもう、気にしてないぞ」
「………なんの話だ」
「じゃあ早くユニホームに着替えてくれよ、風丸」
「……今日は無理」


昨日もだ、という言葉は飲み込んだ。
俺は風丸の座る席の前に座り、手に着けていたグローブを外してスッと風丸の髪に触れた。
‘俺’を、見てほしくて。

髪に触れる俺を咎めることなく、嫌がったりはしなかった。
だが目は合わせてくれない。耳にかかっている髪を無言で弄り、サラサラと髪の感触を感じた。

まだ、見てくれない。
伏せられた瞳は、いま何を写しているのだろう。
不安が募る。
焦りが、心を侵蝕していく。
もっと触れたい。
触れたいのに、何だろうか。
触れてはいけないと、頭が警報を鳴らす。


「どうして…」
「………」


まるで、あの時のようだ。
目は伏せられ、虚ろ。
何を写すわけでもなく、ただ悲しげに景色を瞳に取り込む。

声をかけても、届かなかった
……風丸が離れていった

あの日と―――――


「また、離れるのか――…」
「………えんどう?」


俺は髪を弄るのを止めた。
くたりと机の上に手を置き、ついに俺も目を逸らしてしまった。

風丸が声をかけてくれているのに、名前を呼ばれて嬉しいはずなのに。
全く、心踊らない。


「円堂、どうした?」


不安げな声が聞こえる。
机に置いた手の上に、暖かい温もりが降ってきた。
多分、手を重ねてくれたんだろう。


「…風丸、俺じゃ駄目か?」
「……?」
「俺は風丸の事、一番に愛してるんだぞ」
「円堂…」
「好きで好きで、大切すぎて。もう、離れたくないんだ……」
「…っ!円堂、違う。違うぞ円堂」


ガタリと、椅子の動く音がしたと思ったら、肩を強く掴まれた。グイッと強制的に顔を上げられる。
視界がぐにゃりと揺れて、しばらくした先の視界には、目の前に風丸がいた。

――なんて、不安そうな目をしてるんだ。

瞬間、俺は勢いよく風丸を抱きしめた。
逃がすまいと、きつく、強く。
あんな不安げな目は、見たくなかった。
風丸の肩口に顔を埋め、細い腰を引き寄せた。


「え、んど……」
「何が違うんだよ…!」
「!」


やや強い口調で、俺は風丸に反論した。
何が違うというんだ。

好きだと、大切にすると決めた相手を追い詰めてしまって。
守ると決めた相手が離れていってしまった。

何一つ守れなかった。

そんな自分が嫌で嫌で、何度自分を叱ったことか。
罵ったことか。


「また風丸は、俺から離れていくのか?俺が、まだ風丸を追い詰めていて」
「バカ言うな、そんなわけない」


そっと、背中に手が回される。
優しく、背中を撫でるようにさすって。
子供をあやすかのように。
それが以外にも、とても落ち着く。

その手は微かに、震えていた。


「俺だって、円堂のことがいちばん。好きに決まってる」
「だったらなんで」
「だからこそ、おまえに甘えてしまう自分が嫌なんだ」
「…?」


風丸は首に腕を回し、より身体を密着させる。
互いの心音が聞こえる。
とても早くて、落ち着きが無い。
どちらの音かなんて、わからないけど。


「俺は円堂に甘えてばかりなんだ、ずっと。助けられてばかりだ」
「そうか?」
「ああ。だから自分の足で歩きたい。だけど、離れた瞬間、俺は」


すごく、弱かったんだ――
より、首に回す腕に力が篭る。
まだ、震えていた。


「自分の足で歩けなかった…俺は円堂に支えてもらわないと歩けない未熟者だったんだ」
「風丸、」
「だから駄目なんだ。俺は円堂の側にいたら、また…甘えてしまう」
「だからって離れればいいわけないだろ」
「――…すき、だから」


とても小さく、とてもか細い声だった。
俺は目を見開き、風丸を抱く手をきつく握った。
全身の体温が上がるのを感じる。
不安にかられた思いが一気に和らぐ。
ああすごいな。
‘好き’という思いは、ここまで人の心を落ち着かせるものなのだ。


「風丸、俺のこと好きなんだよな?」
「……うん」
「だったら、離れちゃダメだ」


腰に置いた手を風丸の頭に持っていく。
今度は俺があやすように、ポンポンと軽く叩いて、頬を擦り寄せる。
目の前に広がる群青色を手を伸ばし、軽く握る。


「円堂…」
「もう離れちゃ駄目だ…俺はもう、昔みたいに堪えられないんだ」
「…?」
「いつかみたいに、風丸が側にいないのは堪えられない…」
「っ!!」


風丸の身体が跳ね上がる。
風丸も俺も、きっと同じことを思ったのかもしれない。
さりげなく、避けて通ってきた話。
いつか、しっかりと話さなければいけないと自覚していた。
震える肩を強く抱いて、俺は首筋にキスを落とす。
風丸も、震えながらも俺の背中に回す手に力を込めた。


「もう俺は、昔みたいに待てない。風丸が離れていくのを、黙って見てやれない。俺は絶対に」


風丸を追いかけてやる――
そう、自分に戒めでもするかのように。
今、自分の手の中にある大切なものを二度と、もう二度と離さないように。


「辛かったら言ってくれ。悲しかったら言ってくれ。頼りないけど、俺は風丸の側にいるから」


今は言うことしか出来ないけど、この手を再び離れそうになったとき俺は、風丸を救ってやりたい。


「……ん、うん…っ」


顔は見れないけど、俺はほっとした。
なにより、俺に触れている手が優しい。
触れる頬が暖かい。
それだけでも嬉しかった。


「よろしく頼むよ、円堂」
「ああ、任せろ!」






互いの顔は見合わない。
目を見なくても、何を考え、何を思っているのかわかるから。



なにせ俺達は、











好きで、好きで、




【互いに想い過ぎるほど好きだったんだ】










水色マーブルちょこ。へ参加させていただきましたっ。
円風大好きっ!

切なくて甘いのが好きです。




20100712







あきゅろす。
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