これを人は恋と呼ぶ(松半) 一学期終業式。俺とマックスは学校のプールに足だけを浸かって並んで座っていた。 昼から始まる部活までの数時間。 俺達は暑すぎるこの太陽から逃げるため、少しでも涼もうと勝手にプールにやって来た。 二人で見せ合う通知表、断然マックスの方がいい。 俺は良くも悪くもない中間。 いつも授業中寝ているコイツより悪いなんて、 「教師の陰謀だ」 「なぁに言ってるのさ、半田」 通知表なんて形だけさ。 なんてマックスが言ったってなんの説得力もない。 俺は半ば拗ねてプールの水をバシャバシャと蹴り上げる。 三十度を超える猛暑日にプールはうってつけだ。 するとマックスがそんな俺にこう言った。 「『この世に公平なんて言葉は無い!人は生まれつき不公平なのだ!』」 指をピッと立て、閃いたかのように空を仰ぐ。 そんなマックスの横顔に、汗が流れた。 「……、……え、何?どうかしたのマックス」 「半田が『不公平だ』って顔してるから」 「………」 間違ってはいない。 勉強にしろスポーツにしろ、いつものそつなくこなすマックスの姿は、皮肉にも目で追ってしまうほどなのだから。 サッカーだって、後から助っ人としてやって来たマックスの方が上手いし、試合にだって出ている。 「でもね、半田」 「……うん?」 マックスはいつも被っている帽子を外し、床に放る。 久しぶりに見た気がする瞳に、少し緊張した。 「僕からしてみれば、半田の方が不公平な気がするよ」 「……ん?」 「いつも君はさ、普通でいられるじゃないか」 「……はぁ、」 「特殊は特殊で、それなりにメンドクサイ事だってあるんだよ」 「……ふぅん」 「…ちょっと、聞いてるの?」 「聞いてるって、ようはマックスも大変って事だろ?」 「特殊が普通に見られるから、僕が半田みたいになる事は出来ない」 「……」 軽く小馬鹿にされた気がしたが、マックスが寂しそうにプールの水を見つめるものだから、非難する気が失せてしまった。 俺は最後まで曖昧な返事しかしてないが、マックスはそれでも満足のようだ。 「つまりさ、マックスは‘普通’になりたいのか?」 俺は流れる汗をシャツで拭う。 ジリジリと水分が抜ける感覚に、くらりと目眩がした。 気付けばいつのまにか、蝉の鳴く声が辺り一面に広がっていた。 ふとマックスの横顔を盗み見すると、汗まみれの笑顔が俺に向けられていた。 「君が 羨ましいってこと!」 一瞬、全ての音が消えた――― マックスはすくっと立ち上がり、そのままプールへと綺麗に飛び込んだ。バシャンと大きく水柱が水面に立つ。 俺は呆気にとられ、その場に固まった。 「……は、はぁぁあ!?」 あまりの衝撃的な出来事に声があがる。 俺はやや身体をプールに屈め、落ちない程度に中を覗く。 しばらくしてマックスが顔を出し、俺の近くまで寄ってきた。 「お、おいマックス。制服だぞ」 「ハハ、そうだね」 「早くあがって」 「半田、」 「う、うん?」 長い前髪をかきあげて、晒す事のない瞳をあらわにさせる。 そのギャップに驚きつつも、ぐっと心が跳ね上がった。 ジリジリと焼ける暑さの中、マックスの瞳を見続けていたら 「…っ!」 「半田の唇ゲット」 押しつけるだけのものだったけれど、プールの冷たさや唇の柔らかさなんかは鮮明に感覚として残っていて、羞恥で顔が熱くなる。 「お、まっ」 「半田、カオ真っ赤」 「誰かに見られたらどうするんだよ!」 「見せつけてやればいーじゃん」 「はぁ?!」 「愛してるよ半田、」 「っ…」 そっと頬に触れるマックスの手は冷たくて気持ち良かった。 ‘愛してる’と言った時のマックスの顔はとても柔らかく、キスしてきた時の表情とは打って変わって違った。 濡れたシャツに透けてみえる赤いシャツも、頬と髪を濡らした姿も、いつもの自信に溢れた姿。笑顔がいじらしい。 「半田、愛してるよ」 「う…うん」 「ねぇ、半田は?」 「……っお、俺は」 「好き?僕の」 マックスが何か言おうとしていたが、俺はそんなものを無視して勢いよく抱き着いた。 そのままプールへとダイブして、水の中へと潜っていく。 髪や顔、全身に水が染み込んでいく感覚が心地好くて、俺は強くマックスを抱きしめる。 マックスはそれに答えるように、背中に腕を回して抱きしめ返す。 もはや水の中だというのを忘れてしまいそう。 でもただ一つ。 そういえば制服だったなと、俺はふと気づいた。 (あぁ、なんていうか…) 【もうそれだけで、幸せ】 二万打リクエストの松半を少しいじりました。 20100811 |