哀色ラプソディー(鬼道+音無) 青々と茂る木々が、風に揺れる。 快晴な空があって、そよ風がとめどなくグラウンドを駆け抜けていく。 背中を覆うマントがユラユラと揺れ、背中に涼しい風が入り込む。 ――ああ、今日はいい天気だな。 マントを着て、背中に風を感じながら前をひたすら走る。 がむしゃらに走って、ひたすら汗をかいて、大きく息を吸う。 何度も何度も、地面蹴り上げ駆け出してゆく。 「はぁ…ハッ、…っは……っ」 息を切らす頃には、俺は額に汗を沢山作っていた。 ポタポタと汗が砂の上に落ちていき、ガタガタと足が震える。 (……少し、やりすぎたか…?) 俺は震える足をふるい立たせ、ヨタヨタと覚束ない足取りでふらついていたら、 「やだお兄ちゃん、汗でビッショリだよ!?」 「……っ春奈?」 ぼんやりとしてきた頭を上げると、こちらへ走ってくる春奈の姿があった。 直ぐさま手に持っていたタオルを頭から被され、もう片方にあるドリンクを差し出す。 「どうせ、飲み物は用意してないでしょ」 「………あ、」 「もぅ…しっかりしてるんだか違うんだかっ」 クスクスと可笑しそうに笑う春奈は、そのまま俺の手を引いて木陰まで連れて行ってくれた。 そよそよと吹く冷たい風が、熱い汗を冷ましていく。 とても心地好くて、俺は目を閉じた。 「…涼しいな、此処は」 「うん。案外木陰って涼しいんだよ、」 ズルズルと木にもたれ掛かる。 汗ばむユニホームが肌にくっついて気持ち悪いが、そんな事を気にさせないほどの急な眠気がやってきた。 瞼が重くなってきて、ふんわりと気持ちが落ち着いている。 どうしたのだろうか。 いつもならこんなこと無いというのに。 「そろそろ部屋に戻る?」 「………あぁ………」 「……お兄ちゃん?」 「……………なんだ?」 「疲れたの?」 「あぁ……」 早くも意識が散乱としてきて、眠気はどんどんと膨れ上がる。 木陰の下は心地好くて、 頬にあたる風は優しくて、 それに――――、 「じゃあお兄ちゃんが休んでる間、私も此処にいるね」 そういって春奈も木にもたれ掛かる。 その時、サラッとした藍色の髪が視界に入る。 木にもたれ掛かるその姿は、とても施設にいた昔のような幼い姿ではなかった。 女性らしい横顔は、ふと母親似かなと考えた。 母親をよく覚えていない春奈には言えないが、ほんとうによく似ていると思う。 「……はるな、」 「うん?」 消え入りそうな声しか出せなかったが、それで十分だった。 ほんとうに、ほんとうに今更ながら思った。 「――――、―――…」 「…え」 俺は何を言ったのだろうか。 直ぐに睡魔に襲われ、放った言葉は自分に聞こえなかった † 「…あれ、音無」 「あっ、キャプテン…」 「…鬼道、どうかしたのか?」 「多分、疲れて眠っちゃったのだと思います」 「へえ…珍しいな、安心してるのかもな」 円堂キャプテンがユニホームを来て木陰へとやって来た。 きっと朝のランニングだろうな。 キャプテンが来ても、お兄ちゃんは起きることなく、すやすやと眠りつづけていた。 「…疲れてるのかな?」 「しばらくそっとしておこうぜ。…音無は鬼道の側にいてくれよ」 「はい……?」 意味ありげにウインクをし、そのまま軽快な足取りでグラウンドを後にするキャプテン。 ふと木陰の下にいるお兄ちゃんをみると、すやすやと規則正しい呼吸が見て取れる。 (……空耳かな、でも…) ほかほかと、身体全身が熱いのはなぜだろう。 きっとそれは気温のせいに決まってる。 胸が熱くて、たったひとこと聞いただけなのになぜだか、 涙が目に溜まる。 「今更言うなんて、卑怯だよ……」 私だって言いたいのに、先越されちゃったな。 なら、私はお兄ちゃんが起きてから言えばいいか。 「お兄ちゃん、お兄ちゃん、」 聞いて欲しい事が有るんだ。 一度でも何度でも、言ってあげる。 今まで言えなかったあの言葉。 きっと聞いてね。 「春奈、会えて、よかった」 【まったく、涙が出ちゃうじゃない……】 バイバイ。かみさま。に参加させていただきましたっ! 全くお題に沿っていない気がしてならない(^-^; 20100704 |