縁切りの神様 一夜の過ちB さて、其の頃京本人はどうしていたかというと。 「…‥おや??どうしたんだい、京。こんな夜更けに」 「―――業平はん」 くっくっく、と喉奥から妖しい笑いを零した男を睨みつける様に厳しい目付きで見詰めた京は、躊躇いがちに 「実は…」 と、言葉を続けようとした。 だが。 「嬉しいよ、君の方から俺の所に来てくれるなんて。夢みたいだ」 「あっ///」 京が言葉を続けるより前に、彼女は業平と呼ばれた人物に抱き締められて其れは叶わなくなってしまった。 「や、業平はん!!は…離し‥‥」 背中からギュウッと抱き締められると、好きでも無いのに心臓がドキドキ高鳴っていう事をまるで聞いてくれなくなるから。 此の、無駄に容姿端麗な上に頭脳明晰、おまけにスポーツ万能な遠縁の男が正直彼女は苦手だった。 そして其れ故に無駄に女にモテ、女の扱いに慣れていた業平を心の中で苦手に思っていた京は 「離してやりたいのは山々だが‥愛しい女がこんな夜更けに訪ねて来たら誰だって嬉しくて抱き締めてしまうと思うがね」 などと、臭いセリフをしれっと吐く業平に間髪入れずこう言ってやったのだ。 「そんな事ゆうて‥どうせまた得意の口説き文句なんでっしゃろ??」 と。 そんな、容赦の無い京の言葉にも慣れているのか業平はただただ面白可笑しくクスクスと笑っていただけだったが――― 「そういう笑えへん冗談は止めんといて!!」 「冗談??」 牽制する様に京が鋭く制した途端、業平の表情から笑みがすっかり消えてしまった。 「どうしてそうつれない事ばかり言うのかなぁ」 「あ///」 色気たっぷりの低い声にドクリ、と心臓が大きく揺れる。 彼は宗貞と同じく、京の幼馴染で言うなれば兄の様な存在だった。 だが、年上で更に大人びている事も相俟って。いつも彼から子供扱いされていた京は此の年上の男がいけすかなくて仕方が無かったのだ。 なのに思春期を越えるとこうして己を事有る毎に口説いてくる様になったから。 「だ、だって‥業平はんの容姿なら女に不自由しないでっしゃろ??うちの事なんか…本気じゃあらへん癖に///」 宗貞を一途に想う彼女にとっては、どうしても業平の想いを受け容れる訳にはいかなかったのである。 [*前へ][次へ#] |