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小説
守ってやるからU/金ヅラ子
良く晴れた日の昼下がり、金時は家の周りを用事も無く、ただブラブラと歩き回っていた。金時が、通りの角に差し掛かった時、

「待テ!」

 「嫌だ、放せ!」

 怒鳴り声や叫び声、揉み合う音が聞こえたかと思うと、一人の少女が通りの角から、パッと飛び出してきて、

 「「わっ!」」

 金時とぶつかった。

 「痛てててて・・・。」地面に強く打ち付けた腕をさすりながら立ち上がる金時の腕を、少女は労わる様に自分の手を当てた。

 「すまなかった・・・。大丈夫か?」

 変わった娘だな、と金時は思った。彼女は、色鮮やかな着物を身に纏い、長い黒髪を高い位置で一つに束ねていた。

歳は、金時と、そう変わらない15,6歳くらいだろう。見た感じは可愛らしい少女だが、金時は先程から彼女の言葉遣いに違和感を覚えていた。

 「オイ、イタゾ!」

 ハッと顔を上げると、背の高いブロンドの男がこちらに走ってきていた。着ているものから見ると、おそらく、外国人ホストなのだろう。

 「ひ・・・っ!」

 少女は、サッと蒼褪めて後さずりした。その表情に、ただならぬものを感じた金時は、己の感情に突き動かされるまま、少女の手首を掴み、走り出した。



 どのくらいの間、走っていたのだろう。金時と少女は、息を弾ませながら人気の無い路地裏に駆け込んだ。

 「ここなら・・・大丈夫だな・・・。」少女の手を離しながら金時は言った。

 「そうだな・・・有り難う。」そう答えて、少女は微かに笑った。

 「つーか、お前、何であんな奴らに追われてたの?」

 「・・・・。」目を伏せて口を閉ざす彼女を見て、金時は話を変えた。

 「女の子なのに、大変だな。」

 「女の子じゃない。」

 「へ?」驚いて聞き返す金時の目を真っ直ぐ見据えて彼女は再び口を開いた。

 「俺は男だ。」

 「マジで・・・!?」仰天する金時を見て、少女、いや、少年は笑った。

 「驚いたか?」

 「驚いたもなんの。つーかさぁ、じゃあ何でお前、女装してんの?」

 「好きでやっている訳ではない。奴らに着せられたんだ。」

 「何で?」

 「それは・・・。」彼は一瞬目を伏せた。「俺が、奴らに買われたからだ。」

 「は?」聞き返す金時に、彼は苦笑した。

 「俺の家は、巷では有名な名家だったんだが、父が奴らに騙されてな、家は一気に破産した。」そう言って彼は再び苦笑した。

 「金が一円も払えなくなった父に、奴らは俺を高く売れと迫った。金には目が無い男だ。父は迷わず俺を売ったよ。」

 金時は何も言えなかった。彼が、そんなにも辛く重い苦しみを背負っているなんて、思いもしなかった。

 「・・・で、お前は、奴らんとこから逃げ出したって訳だ?」

 彼は頷き、言った。

 「あそこは地獄だ。あそこ以外のどこでも、今の俺にとっては天国なんだ。」

 「なァ、お前・・・。」続けようとした金時の声を別の声が遮った。

 「イタゾ!アソコダ!」

 金時は少年の腕を掴んで走り出そうとしたが、遅かった。2人は、あっという間に男達に取り囲まれた。

金時は掴んだ少年の腕が震えているのに気付き、守るように彼の前に身を乗り出した。

 「オイ、ガキ。お前、外人カ?」

 2人を取り囲んでいた男の一人が金時の髪を見ながら言った。

 「違―よ。俺は生粋の日本人だ。」

 「ソウナラ、傷ツケテモ、イイダロウ・・・。」男はニタリと笑った。「サァ、ソイツヲ渡セ。」

 「嫌だね。」

 縋るように自分の手を握ってくる少年の手を握り返しながら金時は男を睨みつけた。

 「オ前ハ、ソイツトハ何ノ関係モナイジャナイカ?ソイツナンカノ為ニ、死ンデモ、イイノカ?」

 「確かに、オレはコイツとは赤の他人だ。でもな、理不尽な理由で弱い立場に立たされてる奴を誰が見捨てられっかよ?」

 「タワケタコトヲ。」男は冷たく金時を見据えた。「イイダロウ。後悔スルガイイ。・・・ヤレ。」

 その言葉を合図に男達が一斉に2人に襲い掛かる。金時は少年の手を強く握り締め、自分の元へ引き寄せようとしたが、

男達の怪力によって、2人は引き離された。必死になって彼の手を掴もうとする金時を男達の容赦ない殴打が襲う。

それでも、何とか彼を救おうと、滅茶苦茶に拳を振り回す金時の頭を、何か固いものが殴り、彼の意識は飛んでいった。



 目を開けると、まず先に路地裏の景色が目に飛び込んだ。体を起こすと、全身に痛みが走った。気を失う前と全く変わっていない路地裏。

だが、そこに、あの少年は、いなかった。

 「クソッ!」金時は歯軋りした。



 守れなかった・・・。



自分に助けを求めていたのに、守ってやれなかった・・・。



拳を握り締め、目の前のコンクリートの壁を睨みつける金時の脳裏からは、名前も知らない少年の縋るような表情が離れなかった。


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