小説
君を道連れに/銀桂
目を開けると、真っ先に寝室の天井が目に飛び込んだ。
「ヅラ、気付いたか?」
桂が声のした方を見ると、銀時が桂の寝ている布団の傍らに膝をつき、心配そうな顔で彼を覗き込んでいた。
「銀時・・・。」
身を起こすと、桂は目眩がするのを感じた。咄嗟に桂の身体を銀時が支える。
「無茶すんなって。」
「俺は・・・、倒れたのか・・・?」
「あぁ。戦場から屋敷に着くや否や、ばったんきゅーってな。」
「そうか・・・、迷惑をかけたな。」
そう言って立ち上がろうとする桂を銀時は押しとどめた。
「医者がな。」桂の肩に手を置きながら、銀時は言った。
「しばらく安静にしてなきゃ駄目だって行ってたぜ。お前、疲れ過ぎなんだってよ。」
「しかし・・・っ。」反論しようとする桂の唇をキスで封じ、銀時は桂を再び布団の上へ横たえさせた。
「ヅラは暫く戦はお預け。ゆっくり休んどけよ。」
そう言い残して、銀時は部屋を出て行った。
その夜、攘夷志士の本陣として使われている屋敷の一室では、軍事会議が開かれていた。
「明日、敵の本陣を崩す。」高杉の突然の宣言に、その場が大きなざわめきに包まれる。
そんなざわめきに構いもせず、高杉は地図を見ながら続けた。
「まだ敵が寝ている早朝に、斬り込む。先陣は、鬼兵隊が務める。テメェらは、その後からついて来い。」
「しんがりはどうするんだ?」ふいに、仲間の一人が言った。
「雑兵だけだと役に立たねェ。オレ達の中からも出さねェとな。」
高杉のその言葉に、再び大きなざわめきが起きる。
「本陣が相手だぜ?死にに行くようなもんだぜ!」
「俺は行きたくねーよ!」
「オレが、やる。」
ざわめきを静めたのは、銀時だった。
「オレが、一人でやるよ。」
部屋の外から、こっそりそれを聞いていた桂は、ハッと息を呑んだ。
―銀時・・・っ!
「銀時ィ。」流石の高杉もこれには驚きを隠さずにはいられなかった。
「気でもふれたか?流石の白夜叉様でも、それは無茶ってモンだ。」
「どうせ、この中の誰かがやらなきゃならねーコトだろ?」
銀時は苦笑した。
「何、オレじゃ駄目なの、高杉?」
「でもテメェ・・・。ヅラはどうすんだよ?」
「アイツには・・・。内緒にしておく。アイツは巻き込みたくねェ。特に、今のアイツはな。」
それだけ言い終えると、銀時は、未だ度肝を抜かれた顔をしている仲間達のいる部屋を後にした。
が、部屋のすぐ外に寝ている筈の桂の姿を見て、足を止めた。
「ヅラ・・・。聞いてたのかよ・・・。」
困り果てたような顔をする銀時に桂は蒼白な顔で言った。
「本当に・・・、行くのか?」
「あぁ。」
「ならば・・・。俺も、連れて行け。」
桂の言葉に銀時は即答した。
「嫌だ。」
「何故だ!?今の俺は足手まといになるからか!?」
「違―よ。」銀時は桂の頬に手を当てた。
「お前に、死んで欲しくねーからだよ。」
「俺とて・・・。お前に・・・、死んで欲しくなどない!!」
桂は銀時に近づこうとしたが、くらっと目眩を起こして、銀時の胸へ倒れ込んだ。
桂を抱きとめると、銀時はその、細い身体を抱く腕に力を込めた。どうやら、桂は眠ってしまっているようだ。
「だから、安静にしてろっつったのに・・・。」
そう言って苦笑すると、銀時は桂を抱き上げた。
翌朝、高杉は鬼兵隊を率いて敵の本陣に突っ込んでいった。
味方の全軍が戦場へ行ってしまうと、屋敷の前で様子を見ていた銀時は、刀を手に、戦場へ駆け出そうとした。
が、
「銀時ィっ!」
自分を呼ぶ声に足を止め、振り返った。
そこには、長い髪を結わえ、鉢巻きと甲冑を身に纏った桂が立っていた。
「ヅラ!おまっ、何で来たんだよ!」
驚き、叫ぶ銀時に桂は近付き、言った。
「俺も行く。お前が行くところに、何処までもついていく。」
「・・・死ぬかもしれねーよ?」
「お前と共に死ねるのなら、構わない。地獄の底まで、俺はお前についていくから。」
銀時は、かたく桂を抱き締め、そっと、震える唇に口付けた。
戦場からは、出陣の合図の烽火が上がっていた。
「行くぜ、ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ!」
―もう、迷わない。君の行くところに、僕は何処までもついてゆくよ。
―たとえ、君の道連れになっても。
(2006/12/28 「蝶〜気ままな猫〜」出展)
〈あとがき〉
高杉について突っ込ませてください。
「晋ちゃぁぁぁん!!!アンタ、何、攘夷派牛耳っちゃってんのぉぉぉ!!!」
絶対、コレ、他の方々、「コイツ、チビのくせに何偉そうにしてんだ。」
って思ってますって。
しかも、高杉、銀桂認めちゃってますよね!コレは、ないです。高杉はいつも桂を狙っていて欲しいので。
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