小説
たとえ忘れ去られても/銀桂
町外れの工場裏に桂は、いた。彼は、この工場主で攘夷浪士でもあるマムシの蛮蔵に会いに来たのだ。
マムシの噂は攘夷志士の中心的存在である桂の耳にも届いていた。噂によると、マムシは近いうち、
江戸中を焼き払うほどの威力を持つ大砲でテロを起こそうと企てているらしい。そこで、穏健派であり、
攘夷浪士中に名の知られている桂が、それを止めようと来たのだが・・・。
桂は工場裏で一人、空を見上げる男を見て声を上げた。
「銀時ィィっ!」
男が、ゆっくりと顔を上げる。それは間違いなく坂田銀時だった。
「僕に何の用ですか、お嬢さん?」
不思議そうな顔をする銀時の元まで駆け寄りながら、桂は言った。
「お嬢さんじゃない、桂だ!貴様、まだ戻っていなかったのか!」
「貴女は・・・僕の彼女かなんかだったんですか・・・?」
「彼女じゃない、桂だ!それに、俺は男だ!銀時!俺達は・・・恋人同士だっただろう?」
「い゛?男同士で!?」
仰天して目をむく銀時の言葉を聞いて、桂は声を震わせた。
「何も・・・覚えていないのか・・・?」
―子犬のようにじゃれあった子供時代も、背中を預けて戦った攘夷戦争も、そして、二人で過ごした幸せな時も・・・。
―銀時・・・。俺のことも・・・忘れてしまったのか・・・。
「桂さん。僕は、以前のダメ人間だった自分を受け入れたくはありません。これからは、新しい坂田銀時として生きていくつもりです。」
それを聞いて、桂は咄嗟に銀時にしがみついた。そして、銀時の顔を、まっすぐ見つめながら言った。
「確かに、以前のお前はダメ人間だった。だが、俺は、そんなお前が好きだった・・・。強くて、優しくて、いつも俺に暖かく笑ってくれたお前が!」
桂は、銀時にしがみつきながら、自然と、銀時の腕が自分の背に回り、優しく抱き寄せていることに気付いた。
おそらく、銀時は自分のことなど、全て忘れてしまっているのだろう・・・今は。だが、本能では、きっと・・・まだ覚えているのだ・・・。
桂の背に回された優しい腕が、全てを語っていたから・・・。
〈あとがき〉
昨日のアニ魂を見て、咄嗟に書きなぐりました。あの話は、感動的で大好きです。
できれば、攘夷派皆で銀さんの前に立ちはだかって欲しかった。
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