小説
守ってやるからW/金ヅラ子
それから何ヶ月も経ったある日。金時は仕事を早く終えてヅラ子の店へと向かった。それは既に彼の日課となっていて、
きっと、店の前では既にヅラ子が口元に笑みをたたえて自分を待っているのだろう・・・。そう思うと、自然と笑みが漏れてきて、金時は口元を緩めた。
しかし、店の前にいつも自分を待っている筈の彼女の姿は無かった。首をひねりながら店に入ると、ヅラ子は、いた。
ソファに腰掛け、客の接待をしている。客と話す彼女の横顔を見ながら、金時は彼女が綺麗だと思った。
が、彼女の横顔に見とれながら、金時は、あることに気付いた。
ヅラ子の表情が、硬い。微かに、彼女の肩が震えている。そんな彼女とは対照的に、彼女が接待している客である男は口元に、
厭らしそうな笑みを浮かべている。よく見ると、男の手が、ヅラ子の腰から尻辺りを撫で回している。
ヅラ子は目に溜まった涙を堪えているかのようにも見えた。
ふと、金時の耳に、ヅラ子と再会した日に神楽が発した言葉が響いた。
「あの子は昔、親に身売りに出されて色々と辛い思いをしてきたのよ。」
ヅラ子は、あれから、奴らに何をされたのだろう?男性恐怖症になるくらいだ。
おそらく、誰にも言う事の出来ない程の辱めを受けたのだろう・・・。
そして、その悪夢が、今も、彼女の心に深い傷をつけているのだろう・・・。
金時は、ヅラ子に深い心の傷を負わせたのは、彼女を守ることの出来なかった自分でもあることを思い知った。
あの時・・・、彼女を守り抜いていれば・・・。金時は唇を噛み締めた。
ヅラ子の顔からは血の気が完全に引いていた。それを見た金時は、彼女を助けようと一歩踏み出す。
が、彼に気付いたヅラ子は、それを目で制した。
―何もするな。そんなことをしたら、お前にも、社長にも迷惑が掛かる。俺は大丈夫だから・・・。
彼女の目がそう語っていた。
彼女は、自分一人のことで、他人に迷惑をかけたくなかった。その健気さに金時は胸を打たれた。
男が帰り、店を閉めると、ヅラ子は、へなへなとソファに崩れた。彼女の顔には未だ赤みが戻っていなかった。
「オイ、大丈夫か・・・?」
彼女の隣に腰掛けながら気遣う金時に、ヅラ子は力なく頷いた。その、あまりの儚さに、
金時は自分の感情を堪えきれなくなって、彼女を抱き寄せた。
ヅラ子は一瞬、体を強張らせたが、やがて、すがるように金時に身を預けた。
金時にしがみつきながら、ヅラ子は心の中で自分に問いかけた。
―何故・・・金時は、こんなにも優しいのだろう・・・。
―何故・・・俺の心は、彼だけに救われるのだろう・・・。
―何故・・・彼は嫌いになれないのだろう・・・。
―嫌いになれるわけがない・・・むしろ・・・。
「ヅラ子。」彼女の背に腕を回しながら、金時は言った。
「御免な・・・。あの時、お前を守ってやれなくて・・・。」
「お前のせいじゃない・・・。」ヅラ子は首を横に振った。
「オレは・・・もう、お前にあんな思いをさせたくねェ。」
そこで一旦言葉を切り、金時は腕の中のヅラ子を見た。
「これからは、オレがお前を守ってやるから・・・。」
「金時・・・。」
「ヅラ子・・・。」金時はヅラ子の頬を撫で、言葉を紡いだ。「好きだ・・・。」
そう、それは、ずっと前から・・・。多分、初めて彼女に出会った時から・・・。
「俺もだ・・・。」
ヅラ子は口元に笑みを浮かべながら、自分の頬を撫でる金時の手に、自分の手を、そっと重ねた。
金時は、ヅラ子に顔を近付けた。
「お前が生きてる限り、ずっと守ってやるからな・・・。」
その言葉は、金時の唇からヅラ子の唇へと、優しく落ちた。
〈完〉
〈あとがき〉
金魂を書くに至っての導入的な話です。私の書く金魂はこんな感じなんです。神楽は、20歳前後。
金魂プレミアムカバー(?)に載っていた、あの神楽をイメージしてください。大人っぽさを出すために、あえて「〜アル」などの語尾は取りました。
本編の神楽も大人になったら取れるんでしょうか・・・?
ヅラ子は女桂じゃないけど、ややこしいので「彼女」にしました。外国人の台詞、カタカナばっかで読みにくくてすみません。
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