不運・仁吉先生 A A続・某CM「Welcomeだよ」な仁吉先生ネタ ---------------------------- テニスコート脇の校舎の影で、一太郎の部活動入部を巡り、仁吉そっちのけでもめる長崎屋の三人。 「とにかく、どこの部活に入部するとしても、それは私の好きにさせてもらうよ!」 「いけませんよ若だんな! 庭球に限らず、運動部に入部だなんてとんでもありません。仁吉が聞いたって、怒りますよ」 「なっ、なんで仁吉が話に出てくるのさ! 屏風のぞきも、なんとか佐助に言っておくれよ」 「……辛いだろうけどね、若だんな。たとえ庭球部に入ったとして、いつまで体が保つか……せいぜい頑張って一月ってとこだろうよ」 「……っ」 屏風のぞきの言葉に、一太郎は俯(うつむ)いてしまった。 と、そこへ。 「今はもしかして、取り込み中なのかな」 「栄吉……」 「どうしたんだい? 三人して、こんな校舎の脇で」 「え、いや……なんでも…ないよ」 「? まぁいいけどさ。それより、佐助先生」 「へ? あたしですか」 「部活! 今日は来てくれないんですか」 「あ……」 どうやら佐助、今日の放課後に料理部があることを忘れていたらしい。 これを機と見た一太郎が、そそくさと佐助を急かす。 「駄目じゃないのさ佐助先生! 私との話はもう終わったからさ。栄吉、佐助先生を部活に連れてっておくれ」 「若だんな! そうやって、あたしから逃げられるとでも……」 「佐助先生、行きますよっ」 抵抗するも虚しく、栄吉に連れられて渋々料理部へと佐助は消えた。 依然、一太郎と屏風のぞきは校舎影からテニスコートを見つめている。 「……」 「……」 「……なぁ」 「……うん?」 「若だんな」 「なんだい屏風のぞき?」 どのくらいそのまま走り続ける仁吉を見つめていたか。 庭球部なぞうんざりだという屏風のぞきは、やや心配げな面持ちで一太郎の顔色を伺う。 「仁吉先生を見るのもいいけどね。いつまでこんな所にいる気だい? ここは日影だけど、あんまり長くこのままじゃあそのいち若だんなは、ぶっ倒れちまうよ。帰ったらまた家で会えるんだ。今日は大人しく、あたしと一緒に帰んなよ」 「おや、めずらしいね。屏風のぞき。お前、心配してくれてるのかい」 「嫌なことを言うねぇ。あたしだって若だんなのことは、いつでも気にかけ………あ」 ともかく一刻も早く一太郎を帰宅させようとする屏風のぞきの言葉を遮ったのは、二人の視線の先だった。 これは仁吉が、なんと不覚にも転んでしまったのだ。 「仁吉! 大丈夫な……」 「仁吉先生大丈夫ですか!?」 「やだ〜仁吉先生てば、意外とおっちょこちょいなんだ」 一太郎が思わず校舎の影から飛び出すよりも早く、不覚にも転んでしまった仁吉の周りは、仁吉先生を慕う女子達でいっぱいだった。 (よかった。仁吉、怪我はしてないみたいだね) 己に言い聞かせるように、初めは仁吉の無事を喜んでいた一太郎だったが、しだいにその顔が曇り始める。 (大丈夫そうに見えるけど……なんでまだ、あんなに女子達が仁吉の周りにいるのかしら。怪我はしてないのに、なんであんなにまとわり付いて……) 一太郎は自分が女子達に嫉妬していることに気づかない。 その終(しま)いには女子達への嫉妬心よりも、悲しさが勝るのか、泣き出しそうな顔になる。 (……これは……佐助さんに、報告だね) 屏風のぞきはいよいよ仁吉に嫌気が差して、無理矢理にでも一太郎を連れて帰ろうとしたその時。 「若だんな!」 「……えっ」 いきなり名前を呼ばれて泣きそうな顔をあげると、どうやら若だんなの存在に(やっと)気づいたらしい仁吉が、周囲の女子達を捨て置きこちらに走ってくるではないか。 「どうしたんです? 近くにいらしたなら、声をかけて下さればよかったのに」 「庭球部の邪魔になるだろう。声なんて、かけられないよ」 とっさの笑顔でそう答えてみせたのだが、一太郎のその笑みを見た仁吉はさっと眉をひそめた。 「……若だんな、どうなさったんです。具合が悪いんですか? 顔色がよくありません。今すぐ保健室に……」 場も気にせずに一太郎を抱きかかえようとした仁吉の手を、屏風のぞきが割ってとめる。 これによって仁吉のこめかみに青筋がすっと入ったが、今は屏風のぞきもすこぶる腹の虫の居心地が悪い。 「なんだいお前。若だんなに付いていながら、若だんなの顔色も見なかったのか!」 「よく言うねぇ。何(なんに)も知らない、仁吉先生は」 「私が、何も知らない……?」 屏風のぞきの何倍も生きているだけに、今の言葉は仁吉の怒りに触れたらしい。 いつのまにか庭球部の女子達が周囲を取り囲んでいるのも気にせず、今にも屏風のぞきに手を出しそうな仁吉と、自分の為に不機嫌になっている屏風のぞきの間に一太郎が宥めて入る。 「どうしちゃったのさ二人とも。私は心配いらないよ。どこも悪くないからね」 「ですが、若だんな……」 「仁吉先生、部活動の妨げになってしまってすみません。庭球部の皆さんも部活動に戻って下さい」 「先生、だなんて……若だんな……そんな他人行儀な」 「ここは高校だろう? 心配かけてすまなかったね、仁吉。私はこれで、屏風のぞきと帰るから……」 それだけ告げて、一太郎は仁吉に笑顔を向けた。 仁吉に手を振って、屏風のぞきと歩き出す。 仁吉も仕方なくテニスコートに引き返そうとしたが、すぐにまた一太郎のもとへと走り寄る。 「若だんな」 「仁吉?」 「こんな調子で、今日はとても校門まで見送りができないものですから……」 心底申し訳なさそうにする仁吉の手の先を、一太郎が軽く握った。 嬉しそうに顔を上げた仁吉を、一太郎の後ろに立つ屏風のぞきがあきれ顔で見はる。 「仕事だもの。仁吉が忙しいのはわかってるよ。家で妖(みんな)と待ってるから、庭球部のことも、後で聞かせておくれ」 「もちろんです! 若だんな……帰り道中、お気を付けて」 最後に帰り道中、くれぐれも一太郎のことを屏風のぞきにしつこく釘を差して、仁吉はテニスコートへと戻った。 (……それにしても、先程の若だんな……泣きそうな顔をなさっていた。やはり屏風のぞきか誰ぞ、若だんなに不快な思いをさせたのでは……?) 一太郎が眠ったら、たっぷりと屏風のぞきに詰め寄ろうと考える仁吉。 だがその夜。 屏風のぞきに詰め寄るどころか、逆に佐助にさんざん説教をきかされるのは、庭球部顧問の色男先生の方だったそうな。 ---------------------------- 結局、屏風のぞきの一人勝ち(^O^)/ 何故だか長くなってしまいました; そして、なんとなく栄吉登場。 屏風は恋愛感情ではなく、保護者的な愛で若だんなを支えてます。佐助も。 転んだ仁吉が若だんなを見つけるシーンは、どてーんと転んで顔を上げたら愛しい愛しい一太郎の姿が見えた……というベタな感じに。 @の最後での仁吉のテンションあんなですから、若だんな発見して走ってきた仁吉はかなりのご機嫌状態。 部活だけでなく、若だんなの顔見た瞬間にいろいろと精力が湧いたはずです。イロイロと(笑) 仁吉が好きな初々しい若だんな。しかしそんな若だんなの心中を一人だけ知らないのが、不運な色男・仁吉でございます(笑) |