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短編/外伝集
八聖城ではなく

いつものように授業を終えた俺達は、二人揃って家路に着く。そんな日常もはや当たり前になった冬の日の事だった。

俺達が歩くのはあまり人気の無い道だけども、それでも今日は町中がどこか浮き足立っているように感じる。
目に入る家々はドアに手作りだろうリースを飾っていたり、赤とか緑とか、様々な色に光るイルミネーションを飾っていたり。

(今日はクリスマスイブだもんな)

心の中でそう言うと、聖霊達が思い思いの言葉を掛けてくれる。俺達人間には神様が生まれた日がクリスマスだとされているけど、彼等が言うには、本当は聖霊達が生まれた日がクリスマスらしい。

「息吹」
と、その時隣を歩く架奈美が声を掛けてきた。
「何だ?」
問い掛ければ、架奈美は単純な疑問をその瞳に宿して言う。

「どうして私達の家には、クリスマスツリーが無いのだろうか」

ああ、なるほどと思った。その問いは当たり前かもしれなかった。
俺達の家には、クリスマスに関するものは何もない。ツリーはおろか、ちょっとした飾り付けも何も。リースだってない。

俺は架奈美の問いに対する答えを、少し言葉を選びながら告げた。
「えーと…ほら、俺、仕送りで生活してる身だからさ。だからわざわざ一年に一回しかないイベントの為にお金出したくなくて」
それはごまかしみたいな言い方になったかもしれない。でも、これも紛れもない事実だから嘘は言っていない…うん。

ひとりで納得していると、架奈美は申し訳無さそうに眉を顰める。
「…私が押しかけてしまったから、お金のやりくりが前より大変になったのだな」
「あ、いや、それは…その」
確かにそれも事実だけど、かと言って『うん、そうだな』なんて肯定したくはなくて。
どう言うべきか悩んでいる内に、架奈美は俺から目を逸らして地面に視線を落とす。

「やっぱり私がバイトを探して…でも、そうすると…」
ぶつぶつと呟く架奈美。バイトするべきだとは思うが、そうするとそもそもの目的である『俺の護衛』がしにくくなるからと悩んでいるようだった。

架奈美は八城家の人間として、俺の元へやってきた。
けれど、俺はそういう事関係なしに、架奈美は架奈美という人として見ていたいと思っている。

だから俺は立ち止まり、つられて足を止める訝しげな架奈美に、こう言った。


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あきゅろす。
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