短編/外伝集 ホワイトクリスマス 「架奈美はどうしたい?」 「…私が、か?」 架奈美にそうだと頷いて、俺は言葉を続ける。 「今だって充分な生活出来てるし、生活費とかに関して俺は不満はないよ。だから架奈美は気にしなくていい。 架奈美がしたいようにしていいよ」 今まで通りに、こうやって二人で歩いて家へ帰り、一緒にご飯を食べてまた朝を迎えるのか。 その生活をある程度捨てても、それでも生活費を稼ごうとバイトを始めるのか。 それは架奈美が自分の意思で決めていいと、俺は言った。 「…自分の意思…か」 そう呟いた架奈美の表情には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。 「私は息吹と出逢ってから、自分の意思を求められる事が多くなった気がする。 自分の意思だけで行動する機会が、格段に増えた」 しかしそれは嫌な事ではない、寧ろ嬉しい事だと、架奈美は笑みを深めた。 そうだ、彼女は今まで八城家の中で抑圧された環境にいたのだから。今のように自由が許される環境は、彼女にとってとても良い環境の筈だ。 八聖城の八城架奈美ではなく、ただの架奈美というひとりの女の子でいられる場所。 そんな場所を俺が創れたなら、それは凄く素敵な事だと思った。 「息吹…」 笑顔のまま、架奈美は俺を呼ぶ。 「何だ?」 ついさっきのように、俺は架奈美の言葉に応えた。 「私、やっぱり今のままがいい」 ――その時。 架奈美の笑顔を飾り付けるように、真っ白な雪がふわりと舞い降りて来た。 「…そっか」 俺も笑顔で頷いて、そして俺達は揃って空を見上げる。 真冬の夕方は、空の色を早々と夜へと変える。 そんな空から落ちて来る雪は、白くきらきらと輝いて。 「綺麗だな」 「…うん、綺麗だ」 二人で感想を伝え合う。 (今年はホワイトクリスマスになったな) とぼんやり考えながら、俺達は暫くの間、聖夜の空を眺め続けていた。 END. [*前へ][次へ#] [戻る] |