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element story ―天翔るキセキ―
心配性


「――…そう。そんな事が…」
東ギルドマスターが、アッシュによって重傷を負った。
それを聞けば、タイガが元気が無かった理由はすぐさま納得出来る。
「ま、正直なところおっさんも予想は出来たと思うけど。なんせアッシュは魔術師キライだし?」

ベリルの作業室兼私室にて、二人は話す。先程までベリルにあった緊張は、ある程度落ち着いて来ていた。
それは彼女の中で、何よりタイガ達への心配の念が緊張を上回ったからである。

「だからエルもあんなに気を遣って…あの子、人の気持ちに敏感だから……」
「そうだなぁ。まああんな環境で育てば当たり前かもだけど」
そう言うオブシディアンの表情は、やはり常と変わらず笑顔だった。けれどベリルはそれに対して不快になったりはしない。
彼にとって、笑顔とは『無表情と同じ』だから。そして彼がそうなってしまった理由を、ベリルは知っているからだ。

「…私はやっぱり、エルが危険な場所に行くのは反対だわ。あの子はまだ小さいし、あんな辛い目に遭って来たんだもの…」
言って、ベリルはオブシディアンを見据える。今彼が着ている衣服は普段と違う。
…いや、かつて『響界』にいた頃と同じ、断罪者<ジャッジメント>の制服だった。

「でもエルは、誰よりベリさんの役に立ちたいから戦うって言ってたぜ。まぁオレも本当は反対だけど、エルはオレの事避けてるしさ。絶対言う事聞かない」
「そんな事…エルだってあなたに感謝してるわ。ただ恥ずかしがり屋なのよ、あの子」
「いーや、ないない」
ベリルの主張に、オブシディアンはひらひらと手を振って否定を示す。

「…ま、暫くはオレとかおっさんが外出ると思うから。エルやカヤナは安全だよ」
ぼすん、と音を立ててソファに座るオブシディアンは、気楽な口調で言う。
しかし彼の発言に、ベリルは顔をさっと曇らせた。
「ん、どしたのベリさん」
「! あ、その……心配、だから」
俯きがちに、か細い声でそうベリルは告げる。

「だって、『収集』に入るんでしょう? ギルドの人間に見つかる可能性だって高くなるわ」
「まー、そうだね。今回の目的だった古文書が無事手に入ったし。必然的にエレメントの多い地へ行く事になるだろうな」
エレメントクリスタルの群生地などに足を運ぶ事になれば、調査にやってきたギルドの人間と鉢合わせになる可能性もあるだろう。
そうなれば、…最悪、激突する事態となる。

「本当にベリさんは心配性だな」
からからとオブシディアンは声を上げて笑う。が、ベリルとしては気が気でない。
「…心配性にだってなるわ」
多くを語らず、ベリルはオブシディアンから顔を逸らした。
どことなく拗ねたような声色に、オブシディアンは僅かに疑問符を浮かべたが、問いかけようとはしない。

「あー、そうだ。ベリさんに渡す物有ったんだ」
暫しの間を置いて言い、オブシディアンは立ち上がる。
「渡す物?」
頷き、オブシディアンは外套に片手を入れて何かを探しながら説明する。

「普段あんま外に出れないベリさんやロウラに、お土産。何かオレから渡せってカヤナから言われたから」
「……っ!」
オブシディアンの説明が進む毎に、ベリルの頬は熱を持ち始める。
親友の気遣いは嬉しいが、何より恥ずかしくて。
自分と彼以外はこの場にいない。誰に見られている訳でもない。
だというのに、ベリルは非常にいたたまれない気持ちにさせられた。




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