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element story ―天翔るキセキ―
精霊のちから―5


刹那、エリィの身体を膜のように覆っていた光が――霧散した。
否、その膜は霧散したように見えただけだ。

実際には、膜は大きく広がっていったのだ。
傍に居たロックどころか、この洞窟全体をも軽く覆い隠す程に。
そしてその膜にさらに覆い被さるように、エリィのペンダントから発される虹色の光が膜を創り出していた。
この空間は呼吸をするどころか、普通に喋る事も出来た。

「動いてる……」
微かな浮遊感を感じたと思ったら、この膜で創られた空間は僅かに動いている。
上へ、上へ、海面に向かって。

「……!!」
虹色の膜は崩れ落ちてくる岩にも、全く意を介さない。
頭上に来る筈の岩も何もかも、虹色の膜に触れた途端粉のように砕かれてしまうのだ。

「え、エリィ!これは……」

絶対にウンディーネの力だけでは無い、ハズだ。
ウンディーネの力だけならば、水属性の物にしか効果を発揮しない。
こんな、障害物を壊すような事、出来る筈が無い。
恐らく、虹色のエレメントロックが何かしら関与して…。


「…………」

しかし、エリィは口を開かなかった。
正確に言えば、口を開く前に倒れてしまった。
糸の切れた人形のように倒れたエリィに慌てて駆け寄り、その華奢な身体を抱える。

「……つかれちゃった……」

エリィはか細い声でそれだけ言うと、静かに目を閉じた。
間もなく聞こえる寝息に、ロックはさっきまでの出来事がまるで夢のように感じていた。
……でも、この非現実的な空間が、これは夢などではないと目を醒まさせてくれた。

洞窟は崩れ、虹色の膜によって粉々に砕け散っていった。
仲間達と入った入口も、エリィと出逢ったあの場所も、跡形も無く。
ロックはその事実に僅かな感傷を抱いた。

「おーい!ロックー!」
「!シング、みんな!」
見渡す限りの碧の中に、仲間達の姿を見つけた。
無事合流した……のだが。

「ロック……どういうこと?」
「え、あ、アリア?」
アリアはロックに声を掛けていたが、その瞳はエリィを見つめていた。
その射抜くような目線にロックは戸惑う。
しかし、見回してみれば他の皆もまたエリィを見ていた。
……一際鋭い目で睨んでいるのは、アリアとセイルだけだが。
シングは神妙な顔で、リピートは不思議そうに見つめている。

「ロック、その子は誰ですな?」
「えっと、この子はね……」
そこまで言って、ロックは言葉を詰まらせる。
……どう説明したら良いやら。かなり長くなりそうだ。

「えぇっと……」

「ロック! ……早く説明しなさい。洗いざらい、私達と別行動を取っていた間の事、全て」

「アリア……?」

いつも冷静沈着なアリアが声を荒らげるなんて、物凄く希有な現象だ。

「な、何かあったの?」
「それは貴方が答える質問よ」
――さあ、言いなさい。
そう訴える目に、ロックは怒られているような気になり、萎縮してきた。

「まぁ待てよ。まずは陸に上がるのが先だ。それからギルドに戻ってヴァルトルさんに報告。その時に話を聞いても遅くは無いだろ」
――ロックも、二回同じ話するの疲れるだろうしな。
そう言ってシングはロックに笑いかけた。
ロックに助け舟を出してくれたのだろう。
「しかし、こいつはどうするんだ」
セイルがエリィを顎でしゃくる。
未だロックに身体を預けたまま眠っている。
起きる気配は無い。

「この子は……ギルドに連れて行くよ」
「!! 正気なの!? この得体の知れない子を、私達のギルドに……!」

ロックは強く頷いた。
だって、放って置けないではないか。
自分が無いという事は、赤子のようにまっさらであるということ。
彼女はこれから白にも黒にも染まれるような、そんな少女なのだ。
……虹色のエレメントクリスタルの中に居た事も気にかかるが。

「この子には……必要なんだよ。傍にいて、色んな景色を見せる人が」

それに……名前を付けておいて、これではいサヨナラだなんてあまりにも薄情ではないか。
それでは赤子であった自分を捨てた実親と何ら変わりない。

「事情はよくわかんないけど、リピートはおっけーですな!」
「……お前は気楽でいいな」
リピートが楽しそうに腕をぶんぶん振った。その姿にセイルは呆れた視線を送る。

「なんですなセイル!リピートはー……!」
憤慨した様子で食ってかかろうとしたリピートを、シングは間に割って入り制止した。

「ほいほい、分かったわかった。とりあえず、今は仮決定って事でこの子もギルドに連れてくぞ。そのままギルドに置くかどうかは、ヴァルトルさんの判断だな」

「シング、本気か?アリアの言う通り、この女は……」

「お前もケチだなー。んなこと言い出したら、初対面の人間はみーんな『得体の知れない奴』じゃねぇか」

「だが、……いや、……分かった。今はお前に従おう」

反論しようとしたセイルだったが、シングの話も一理あるかと思い直し留まった。
……何だかんだ、シングはいざという時は常に大局を見据える冷静なリーダーだ。
対して自分はシングやアリア、他多数から『熱くなりやすい』と指摘されている(そんなつもりは無いのだが)。
結局のところ、そんな自分の考えより、大局を見据えて判断を下しただろうシングに委ねようと思ったのだ。

「さんきゅー。で、アリア。お前は?」
「――正直、不満よ。でも仕方がないわ。このチームのリーダーは貴方だものね」
「貴方に従うわ」と、アリアは溜め息混じりに賛同した。

「よし。そうと決まれば、さっさと陸に上がるぞ」
話している間にもゆっくりと上昇していたこの空間。
暗い海の色が先程までより随分明るくなっていた事に気付き見上げれば、もう海面はすぐそこにあった。
海を透かして見える太陽の光は、まるで自分達を地上へ誘うように真っ直ぐに降り注いでいる。
術の効果は未だ切れていないが、もう必要無いだろう。

ロック達は脚や腕を掻き、海面までの僅かな距離を泳いだ。


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