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element story ―天翔るキセキ―
掲げている理想


「――…来たな」

響界に着いたリーブは、すぐさまとある一室へと案内された。

「まあ、座れ。楽にしていい」
「……失礼します」

そこは何の変哲もない、しかし酷く殺風景な部屋だ。最低限の調度品すら欠けていて、恐らくここには人は住んでいないだろうとリーブは推測する。

響界内部は非常に広く、いくつかの区画に分かれているが――ここは確か断罪者らが住まう土区画だった筈だ。

(…確か)

リーブはかつて響界使者であったが、彼らとは住む区画が違う。確か土区画はその中で生活を余儀なくされていた。響界使者や魔道具技術者よりも、狭い部屋で。

「リオもな、出来るだけ早くここを改修してぇって言ってたよ。『断罪者は響界の中で、あまりに蔑ろにされている』ってな」

「そうなのですか…」

相対するヴァルトルが、いつもと同じ明るい調子で言う。リーブはしかし緊張を消し去る事は出来なかったし、どういった意図を持ってヴァルトルがこの部屋に自分を連れて来たのかもまだ把握出来ていない。
その為、リーブは強い警戒心を抱きながらヴァルトルを見据えた。


「勿論ここだけじゃねぇ、響界全体…いや、世界中に根付いている『選民思想』。魔術師がそうでない人間を見下すような、な…。リオはずっと、昔からそれを変えたかったんだとさ」

「!」

リーブは思わず反応する。ヘリオドールが掲げているという『理想』。それは自分達にも通ずるものだったからだ。


「あいつはな。俺やレスナ達と別れてから、それを叶える為に響界使者になったんだ。……そして、二年前の事件が起きた後」

ヘリオドールは響界代表になり。

当時の西ギルドマスター、タイガが行方不明となった。


「……」

ヴァルトルはなぜ、いきなりこんな話をし出したのだろう。まさか、タイガの行方については掴んでいない…と信じたいが。

リーブは戸惑いながらも、自ら話を切り出す事にした。

「……ヴァルトル様。それで……私は何故、ここに…?」

「…ああ、そうだな。そろそろ本題に入るか。ランジェルに無駄話すんなってキレられたらたまんねえし」

ヴァルトルは歯を見せて笑い、



「――…『アッシュ・ロード』。この名前には聞き覚えがあるな?」

すうっと、ヴァルトルの目が細められた。笑顔が一変、真顔になり。リーブは思わず息を飲んだ。

「……以前、響界には侵入者が現れたのは勿論知っているよな。俺も危うく死ぬかと思ったアレだ」

「…はい」

「あの時現れた男。魔術師名簿の中に、あいつの名前は有った。


――魔術師番号176453、アッシュ・ロード。
お前と同郷の、魔術師だ」




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