element story ―天翔るキセキ― 時間は有限 ――…ロックがそう言い終えた瞬間。まるで彼らの会話を遮るように、扉をノックする音が聞こえた。 「…はーい!」 「大丈夫だよ母さん! オレが出るから!」 キッチンからこちらに来ようとしていたラスカを呼び止め、シングは家の出入り口まで進み出る。 「はい…どちら様ですか?」 シングは扉を開けた瞬間、あまりに予想外の人物がそこに立っていた事に驚き、目を見開いた。 「――…ランジェル…様?!」 「!!」 そこにいたのは。 西ギルドマスター、ランジェル・ギオットであった。 「私が此処に来た理由はただ一つ。貴方がたを響界まで連行する事です」 「ど…どういう事ですか?!」 「説明は後で十分出来ます。とにかく、直ちに私達と共に来て下さい」 『連行』という言葉に、誰もが驚きを隠せない。しかしランジェルは『詳しい事は後』の一点張りで、ロック達の言葉を軽く受け流してしまう。 「シング! みんな、どうしたの!?」 ――…その時。騒ぎを聞きつけたラスカやシルフィーが走ってきた。ランジェルは二人を一瞥すると、やはり今までと同じ冷たい声で言い放つ。 「……ああ、貴方はこの家の主ですね。申し訳ありませんが、この少年達は私共の方で身柄を預からせて頂きますので」 「!? どういう…事ですかっ?」 「ギルドメンバーの母親といえども、詳細は一般人の方にはお伝え出来ません。一つだけ確実に言えるのは、これは響界代表の命令だという事です」 「…!!」 響界代表の命令。その言葉に、ラスカの顔は強張る。ロック達含めた他の人間もまた、まさか響界代表の名が出てくるだなんて思いも寄らなかった。 (リオさん…?) ロックにとっては、個人的な親交があるヘリオドール。彼は響界代表ゆえに一番会う機会が少ないが、朗らかで親しみやすい雰囲気を持つ人だとロックは思っていた。 …そんなヘリオドールからの、命令。 「ロック、みんな」 その時、エリィは声を上げた。混乱していた場に響くほど、彼女にしては大きな声。 「みんな、今日あったことを思い出してみて。その中に、心当たりがある筈。……大丈夫。きっと、悪いことじゃないから」 「…エリィ…」 エリィは、今こうして呼び出された事に心当たりがあって。かつ混乱している他の人間を、安心させようとしたのか。エリィの口調には、そう感じさせるような響きがあった。 「……もう、宜しいですね?」 静観していたランジェルがふう、と大きな溜め息を吐き。 「時間は有限なのですから、迅速な行動を心がけて下さい。――…行きますよ」 そう、全員に呼びかけた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |